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January 09, 2009

『強欲資本主義 ウォール街の自爆』

Wall_street_greed

『強欲資本主義 ウォール街の自爆』神谷秀樹、文春新書

 少し前から話題になっていた本書ですが、なんかタイトルがあざといな、と思って手に取らなかったんですよ。でも、お正月休み明けに、久々に本屋を覗いたら尊敬する伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が強烈にプッシュしているのを腰巻きに見まして、じゃあ読もうと思いました。

 一読、なるほど、話題になる本だと思いました。

 情報満載。

 著者の語るような倫理的な問題意識に関しては、ちょっと相容れないな、というか、清貧の思想や教育なんかで強欲が抑えられたら世話がないと思っているのですが、ポールソンらしき人の強欲な発想や、儲けるだけ儲けて政府高官に収まることで持株を合法的に全部売りさばける"タックス・ホリデー"の利用術などは、非常に参考になるというか、こういうのを知った上で考えないと机上の空論になっちゃうよな、という智恵を得たような気にさせられます。

 p.107にゴールドマン・サックスの元会長であるポールソン財務長官の写真が大きくあしらわれ、その見開きに匿名とはなっているものの「顧客が高い金額で問題のある企業をM&Aすれば、買収時に手数料収入が増えるだけでなく、売却せざるを得なくなった場合にも二度儲けることができる」という教えをMBAのサマー・インターンに語ったという話や、あれぐらい強欲じゃないとウォール街の人間を治められないみたいな話は納得的です(ジミー・カーターじゃ無理だよ、というオチがあるのは、今もって無能な大統領の代名詞なんでしょうかね)。ウォール街の大物が政府高官を目指すのは、民間との利益相反関係を防ぐために持株を売却するように求められるが、その場合には値上がり分の利益には課税されないという"タックス・ホリデー"と呼ばれる特典がつく、なんていう話は、興味深いです。

 同じように、なるほどな、と思ったのは、ウォール街の住人がグローバルスタンダードで目指す規格化というあたり。《あらゆる証券を「定型化された商品」にしようとしている。つまり、自分たちが売買しやすいように取引条件を規格化するのだ。もちろん、それは証券だけに限らない。原油やとうもろこし、コーヒー豆のように、彼らが創った商品取引の仕組みの中に、さまざまな商品を組みこんで行くほど、彼らの旨味と市場支配力は増していく》(p.73)というのは、なるほどな、と。

 また、野村が商業用不動産ローン債権を商品化した商品(商業用不動産担保証券/CMBS)を売りまくる際に雇った人物がバブルの本質について語った言葉も要にして簡です。曰く《エクイティーをデット(負債)でファイナンスすればバブルになるし、はじけもする。それがそもそもの間違いの元》(p.79)。土地や株などを値上がり局面で借り入れで手に入れれば大きく儲けることはできるが、いったん値下がりすると、額面割れしているので借入金を返せない、という至極当たり前の話になります。

 これって、グリーンスパンが『波乱の時代 特別版 サブプライム問題を語る』で世界的にリスクが割安に振れすぎていて、トリプルCのジャンク債がアメリカの国債の利回りを4%しか上回っていなくなっていたことなどが問題だった、というのと同じぐらい"いい言葉"ですよね。

 なら、なんであらかじめ分かっているのに防げなかったんだ、という問題になりますが、ぼくは経済書というのは後付の理論を書いているか、根拠のない楽観論で安心させるだけのがほとんどだと思っていますので、本書のように論点整理をしてくれれば十分だと思っています。

 あと投資銀行には自己資本規制(BIS)がないから、銀行のように資本金の10倍までしかバランスシートを大きくできないということがなく、自己資本の20-30倍も借り入れられる、とかいう話もなるほどな、と(p.141)。さらには、ゴールドマン・サックスに至っては、投資銀行への規制が強くなれば、純粋なファンドになってしまうかもしれない、と著者は予想しています(p.40)。

 著者はなかなか警句のキレがいいです。例えばp.151のこのあたり。

 《アメリカの住宅金融証券市場は実施的に国有化されたといってよい。資本主義の行き着いた先が金融市場の国有化とは何たる皮肉であろうか。買い手がなくなった証券化商品は、中央銀行である連邦準備銀行(連銀)が実質的に唯一の買い手となって吸収している》

 サクッと読めますのでお勧めです。

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