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January 23, 2009

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

Saibara_money

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』西原理恵子、理論社

 あまりマンガは読まないので実は西原理恵子さんのこともよく存じ上げていませんでした。

 『恨ミシュラン』というタイトルをかろうじて知っているぐらい。

 でも、尊敬するさくまあきらさんが以下のように激賞していたので買って読みました。

 そしたら大正解。

 知り合いの子にプレゼントする際の候補本がまたひとつ増えました。

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子・理論社)を、一気に読む。
 すごいね、この本。
 目次を読んだだけで、その衝撃が伝わってくる。
第1章・どん底で息をし、どん底で眠っていた。「カネ」がないって、つまりは、そういうことだ。
第2章・自分で「カネ」を稼ぐとういうことは、自由を手に入れるということだった。
第3章・ギャンブル、為替、そして借金。「カネ」を失うことで見えてくるもの。
第4章・自分探しの迷路は、「カネ」という視点を持てば、ぶっちぎれる。
第5章・外に出て行くこと。「カネ」の向こう側へ行こうとすること。
 20歳になる前に、みんなが読んだほうがいい。

 西原さんが生まれたのは高知。高知といえば、青森と毎年、県民一人当たりの所得でブービーを争っている貧乏県(最下位は不動の沖縄)。高知県は同時に県民一人当りのアルコール消費量でも青森など北東北と全国トップクラスを争っています。貧乏でアルコール消費量が多いとなると、もちろんアル中も多くなり、日本のアル中の型は高知=九州型と東北型に二分できるほど。旅行で訪れるには楽しいところなのですが、まあ、住むのは大変かも…。

 ということで西原さんの故郷に関する記述も厳しいものがあります。曰く、ある友だちの家には窓ガラスがなく戦場みたいな家だったとか、親の目も届かないから子どもの頃から手癖が悪くなり先を争って不良になるとか、たまり場になってるのは中卒で働いているような子のアパートで、そんなところではシンナーでラリッて乱交したりして《女の子は、あっという間にボロボロになっていくし、お母さんたちは、みんな、怒ってばっかりで、このままこの町にいたところで、先が見えている》状態になるんだ、と(p.42)。いやー、こうしたリアリティは経験したことないので、第1章は読んでいて辛いものがありました。

 一転、第2章のトーンは明るくなります。お父さんが自殺した後、お母さんがなけなしのカネをつくってくれて、それで東京に出て、美大を目指し、在学中からせっせと売り込みに精を出して、何でもありのエロ本業界に橋頭堡をつくり、サービス精神満点のヘタウマ絵で売れていく、というサクセスストーリーは「偉いなぁ」と思います。

 思い出したのは『健康ソフトハウス物語 パソコン業界少女の生活』山崎マキコ、ラディク、1990。西原さんの《自分で「カネ」を稼ぐとういうことは、自由を手に入れるということだった》というメッセージは、山崎さんの「働くことは自由を得ること」と同じで、個人的にも共感できます*1。

 ところが、第3章でまた暗転。西原さんはなぜかギャンブルとFXにハマリ、何千万円も失います。にしても、FXはバクチだとか書いていますが、そんなこともわからずにリーマンショックの時に1000万円を瞬殺で失うというのは「女の一人ぐらしはアカンのやないかな」と思ってしまいます。

 最後に、アル中による暴力が耐えきれずに一度は別れた鴨志田穣さんが、ちゃんとアル中を病院で治してきたら引き取って、ガンでなくなる前に、半年間ではあるけれども、平穏な家庭生活を営むことができた、というあたりは、やっぱりいいです。

 働いていてよかった。自分の仕事があってよかった。そのおかげで、病気だった彼をちゃんと看取ることができた。子どもたちにも、お父さんのいい記憶だけが残った。
 お金には、そうやって家族を、嵐から守ってあげる力があるんだよ。
 いざというとき、大切な誰かを安心な場所にいさせてあげたい。
 そう思うなら、働きなさい。働いてお金を稼ぎなさい。そして強くなりなさい。
 それが、大人になるっていうことなんだと思う。

 というあたりを読んで、これから高校生になる知り合いの子に、この本をプレゼントしようと思いました。

*1これはFBI NETという草の根BBSで1980年代後半から90年代前半にかけて管理していたBooK SIGで書いていた書評です。ご参考までに…

-NUM- -R.DATE- -R.TIME- -SENDER- -CONTENTS-
01029 90-09-28 23:28:57 FBI32303 「健康 ソフトハウス物語」
「標準 コンピュータ業界ハンドブック」「当然 バソコン事情ハンドブック」に続くシリーズ第3弾が登場!。大学中退の女の子がソフトハウスに就職して、なんとなく楽しく暮らしている、という話で、まだ読んでいる途中だけど「おお!これはコンピュータ業界の『TUGUMI』じゃ!」と感激しております。
どっかのTVプロデューサーが読んだら「版権押えとけ!」とか言ってすぐドラマ化するんじゃないのかなぁ。とにかく途中までだけど「イイ」です。
PATA

-NUM- -R.DATE- -R.TIME- -SENDER- -CONTENTS-
01033 90-09-30 23:52:10 FBI32303 なかなか泣かせる、ソフトハウス物語
新しいバイトの大学生が来ると「僕、歓迎のために新しい寝袋を買ってくる!」と宣言してしまう社長。家からモデムで会社のNEWSに入るバイトの横山君。池袋の公園で鳩を眺める北村氏。
どれも忘れがたいキャラクターだ。
ラストは人によっては「書きすぎて臭い」と思うかもしれないが、僕は素直に「そーだ、そーだ」と感動した。ホント、いいよ。美化しすぎかもしれんけど。
「健康 ソフトハウス物語」 星雲社 1200円
PATA

-NUM- -R.DATE- -R.TIME- -SENDER- -CONTENTS-
01036 90-10-01 20:54:16 FBI32303 寝袋と「健康 ソフトハウス物語」
 実は渋谷に出入りしている事務所で「僕、寝袋買っておこう」と言って反対されたのは私です。まだ寝袋で寝たことがなくって、死ぬまで一度でいいから寝袋で寝たいというのが僕のささやかな夢でして。「幸福 ソフトハウス物語」では、寝袋のくだりはこうなっています。

 コンピュータ業界の人集めの呼びものに、フレックスタイムというのがある。実際は「好きな時間に出社して、好きな時間に退社しよう」という意味なんだけど、経営者はこれを「朝でも深夜でも必要とあらば働く」と解釈しているらしい。これからコンピュータ業界に入るみなさん、覚悟しようね。
 以前事務所に新しいバイトが入ってきたときの話だ。喜び勇んだ社長は彼らのために新しい寝袋を買って歓迎すると言い出した。
 「僕、これから東急ハンズに行って寝袋2つ買ってくるね」
 「やめてください。ようやく見つかったバイトが恐れをなして辞めてしまいます」
 社長にとって新しい寝袋は、新品の靴下のように楽しい気分を呼び起こすアイテムでも、バイトにとってはこれからの睡眠不足の日々を喚起させる恐怖以外の何ものでもない。
 抜けてるなあ。
 社長の趣味は登山じゃない。昼寝だ。

 でも、この社長がなかなかいいんですよね。彼の夢はパプアニューギニアに支社を持つことで、徹夜明けの朝、青い顔をして吐き気止めの薬を飲んだあと、主人公の山崎マキコさんにこう言います。


「山崎、パプアニューギニアに支社を持とううな。バナナ食いながら仕事したら、きっと楽しいぞ」

PATA

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