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December 07, 2008

『追憶のハルマゲドン』

Armageddon_in_retrospect

『追憶のハルマゲドン』カート・ヴォネガット(著)、浅倉久志(訳)早川書房

 愛するヴォネガットさんが亡くなって、もうすぐ2年がたとうとしています。あと1年半頑張って生きてくれれば、オバマの勝利も見られたろうに。ヴォネガットさんならオバマが民主党候補、そして本戦と勝ち上がっていく過程を、どのように描いたんでしょうね。マクガバンの選対に対してLonesome No Moreというバッヂをつくることを提案したヴォネガットさんですから、きっと多少は皮肉を込めて、でも実はあふれる愛で、彼のキャンペーンを讃えたと思います。それが読めなかったことだけでも残念でたまりません。

 本当ならば亡くなる2週間後ぐらいに行われるハズだった講演の原稿には《わたしの生きてきた時代のアメリカでの最もすばらしい精神的現象は、アフリカ系アメリカ市民が威厳と自尊心をたもちつづけたことです》(p.40)と書かれていますが、これは、もしかしてオバマへの応援だっかもしれません。

 この本は、ペイパーバック時代に書き散らされた小説群と、最後の講演、そして精神分析医でもあり作家でもある息子のマークが書き下ろした「はじめに」で成り立っています。

 一番、読ませたのはヴォネガットさんが、第二次大戦でドイツ軍の捕虜となり、ドレスデン空爆に遭遇したことなどを家族に知らせた手紙でした。

 実にクールに、しかも家族宛なのにブラックユーモアにもとれるような筆致で、たった今、経験し終えたばかりの捕虜生活を振りかえっているんです(pp.22-23)。

《二月十四日ごろ、アメリカ空軍、つづいてイギリス空軍が、襲来、その共同作業は二十四時間で二十五万人の民間人を殺し、ドレスデンのすべてを-おそらく世界で最も美しい都市を-破壊しました。しかし、ぼくは無事でした》

 爆撃の後、捕虜たちを監視していた兵はやがて逃げだしましたが《その幸運な日には、ソ連軍が、その地区にいる反逆抵抗集団を一掃するためにやってきました。ソ連軍の軍用機(P-39など)はわれわれを機銃掃射し、爆撃し、十四人を殺しましたが、ぼくは無事でした》

 『スローターハウス5』にドレスデン爆撃の模様は深く刻まれますが、二十五万人の民間人が殺される中で、偶然、助かったという体験は、ヴォネガットさんにとって宇宙的というか、もう善悪の彼岸にある出来事というか、悲劇とも喜劇とも捉えられないものだったんだな、と思います。

 では、最後に最高のアフォリズムを(p.36)

 もし、いまの時代にイエスが生きていたら、われわれはおそらく致死注射で彼を殺したでしょう。それが進歩というものです。われわれがイエスを殺す必要にせまられるのは、はじめてイエスが殺されたときと同じ理由、彼の思想がリベラルすぎるからです。

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