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December 25, 2008

『日時計の影』

Sundial_nakai

『日時計の影』中井久夫、みすず書房

 『樹をみつめて』2006以来のエッセイ集と思うのですが、後書きでは『記憶の肖像』1992年以来の第7エッセイ集と書いてあります。ヴァレリーなど文芸方面の文章をご自分で選ばれたからでしょうか。そこらへんは置いといて…。

 やはり臨床に関わる文章にはグイグイと引き込まれます。「患者に告げること、患者に聞くこと」で印象的なのは《発病の時の恐怖に比べれば幻覚や妄想など何ほどのこともない》と統合失調症となった友人から聞いたとか、サリヴァンの言うように患者さんたちは焦り(urgency)の中にあって心の平和(peace fo mind)を求めているので、常にあせって何をやり始めたがるがすぐに飽きてしまったり、意欲を持ったこと自体を忘れることで周りからの信用が落ちることが多いとか(このため中井先生は、3週間その意欲がもったらやり始めたらどうかと宥めるそうです)、就職に成功するのは患者さんが別の患者さんを紹介するなど"弱いネットワーク"を使った場合に多いとかいうあたり。

 「老年期認知症への対応と生活支援」では、密室の作業を行う外科医が認知症がなった場合、周りが「辞めてください」と言えず、次々と患者が術中死を遂げることがあったとか(ドイツの外科医ザウアーブルッフ)、リウマチの患者さんは統合失調症にも認知症にも罹りにくいとか、道に迷うのに夕暮れ時が多いのは「たそがれ」という言葉が「誰そ、彼は?」という語源を持つゆえんというあたり。

 「生活空間と精神健康」ではチリに次ぐぐらい南北に長い日本では、例えば鹿児島や沖縄に双極II型が多いのに対して東北地区では少ないとか、アルコール症でも高知=九州型と東北型では違うというあたり。

 「河合隼雄先生の対談集によせて」では、河合先生が《患者との関係を「あたたかく突き放し、冷たく抱き寄せる」と私に言われたことがある》というあたりがよかったですね。

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