吉例顔見世大歌舞伎
いよいよ立て替えのためのサヨナラ公演が来月から始まる歌舞伎座で顔見世を見物してきました。
今月はもちろん午前の部。
鶴屋南北の『盟三五大切 かみかけてさんごたいせつ』を通しでやってくれるから。この芝居、長らく演じられることがなかった作品だったそうですが、辰之助と仁左衛門、玉三郎の復活上演以来、あまり間をおかずに出されています。
内容は、もうほとんど現代劇といいますか前衛劇。
いきなり舟で男女がいちゃつく場面から始まって、あとはもうなんでもありのタランティーノ的ワンダーランド状態。ストーリー的には偶然の要素が多すぎますが、あまり気にしなければ、悪が雪崩式に大きくなっていくことに恐怖さえ感じさせられます。まるでトルストイの『にせ利札』みたいな目眩がするほどの悪の連鎖反応。
『忠臣蔵』で有名な不破数右衛門が薩摩源五兵衛として浪人に身をやつしていた時、芸者・小万に身請け話をもちかけられ、討ち入りの一行に加わるための大事な百両をだましとられ、悪鬼になって一味に復讐するというのがおおまかな話ですが、この小万を手にかける際にはただ殺すだけではあきたらず、小万の手に刀を握らせその赤ん坊を殺すという徹底ぶり。さらに源五兵衛は何を思ったか打ちとった小万の首と差し向いで茶漬けを食う始末。いやー、うなりました。
こんな芝居が200年近く前の文政8年(1825年)に書かれていたなんて。なんと江戸文化の深いこと。
初見で筋を追うのに精一杯でしたが、仁左衛門さんは孤高の演技。ひとりだけ格違いを感じさせます。いま、松嶋屋さんの芝居を見物することは、伝説をライブで見ていることなのかもしれません。
小万は時蔵さんですが、一度、菊之助でみてみたい。もっとも、そうなると、菊五郎がいきなり息子の胸に手を入れていちゃつくシーンからの始まりとなりますが、それはそれでスゴイかもw
もう、これ以上書くとネタバレになりますのでやめますが、ぜひ、ご覧になってください。
午前の部は藤十郎さんの『廓文章 くるわぶんしょう』も最高です。ほんと、オトクですよ!
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