« 更科堀井の「あられそば」 | Main | 「梅乃家」の大チャーシューメン »

November 24, 2008

『臨床瑣談』の連載

Misuzu_0807_10

 中井久夫先生は「月刊みすず」に『臨床瑣談』を連載なさっています。先日、出された単行本は1~6回目までをまとめたもの。ということで続きを読みたくなり、バックナンバーを送ってもらいました。1冊350円見当でしたかね。

 08年7月号と9月号は認知症について。

 中井先生がインターン時代には、何年も奇妙な姿勢をとり続けていたために固まってしまったような緊張型の統合失調症患者の方と梅毒による進行性麻痺の人たちが隔離病棟にずらりと並んでいたとか。現在、この二つの病はもう見られないそうでして、中井先生は《何が効いたのでしょうか》と語っていますが、こうしたことは精神疾患の軽症化といわれることと関係があるのでしょうかねぇ。また、精神病棟特有の"匂い"もなくなったとのこと。

 また、中井先生が精神科医となった時代には若い患者が多かったそうですが、今は高齢者が多くなっているとのこと。病院で寝たきりの老人をみて《ああ、これは五〇年前の統合失調症の状態だな、と》思ったそうです。また、統合失調症の患者さんたちと似ていると思ったというのが、認知症の方も《死期が近づくと清明化が起こる》こと。統合失調症の患者さんでも、親戚一同にお世話になったと丁重に挨拶してなくなったのをみているといいます。

 また、単行本にも書かれている《しがらみのなくなった老医》としてのスタンスでは、統合失調症に関して、一時期アルミニウムが安価に出回った時期と一致するという話があって、米国のアルミニウム会社が学界に大量の寄付をしていたが今はどうなっているのか、ということも書いてます。アルミはアルツハイマーとの関連でも疑いをもたれたことがあると思いますが、ホントどうなっているんでしょうかね。とにかく《こんな長いたそがれは医学史上初めてかもしれません》というのは、なるほどな、と。あと、老人には入眠力はあるが睡眠持続力に問題があるので、もっとも寝入りにくい午後七時頃さけて、八時か九時ぐらいに寝て、午前一時に眠っても二時間ワンセットの睡眠で二セット眠ったということで達成感を持ち、トイレでも行ったあと、睡眠薬を飲むと最初の入眠より効くと書いてあるのは実践的な話なんですかね。幸い、良く長く眠れているんですが、厳しくなったら試してみようと思います。以上、7月号の話。

 9月号では認知症患者が家族の顔を思い出せない、というあたりから始まります。ちょっと脇道にそれる形で紹介されている『もうひとつの視覚 見えない視覚はどのように発見されたか』グッデイル/ミルナー、新曜社、2008はさっそく取り寄せて読んでいます。

 《固有名詞、普通名詞がまず消えるというのは、言葉と、それが指している対象との関係が任意であるので、理にかなった出来事です》というのもなるほどな、と。あと、認知症の方は大きな喪失感を抱えているのではないか、ということは前の号から繰り返し語れていることです。《記憶はまさに盗まれるように消えてゆきます。せんだってまであったものがない。断りもなしになくなっていきます。盗まれたとしかいいようのないものではないでしょうか》というあたりは悲痛ですね。あと、認知症の方や精神科医として接してきた方には「どうして…」と考え続けている人が多いというのも、痛切な言葉。個人的には何も考えていない派なので…。

 中井先生が好きなヴァレリーの「希望には現実への不信が混じっている」という言葉を引用した後の《全く現実を肯定している人は希望しません》という結びには個人的にハッとしました。

 10月号はなんと血液型と性格について。なんでも、お医者さんというのは血液型性格分析をバカにしつつ、非常に詳しく、また実用的に利用しているとのこと。アメリカでは100ぐらいの性格表現形容詞を集め、その遺伝子を捜しているらしいのですが、これまでのところ見つかっているのは引越しが多かったり配偶者を次々に変えたりする「新奇探求遺伝子」だけだそうです。でも、中井先生ではないですが、お手並み拝見といった感じで楽しみに待ってみたいと思います。

 日本で血液型性格学が広まっている原因として、宗教の力が大きくないことと関係している、と中井先生は推測しています。

 B型はパミール高原あたりの一人に生じた突然変異が広まったそうで、あと、北米中部には氷河期に大氷河があったそうですが、アメリカ大陸の原住民には圧倒的にO型が多いそうです。

 臨床の場でも相手に血液型を聞くと過半数の方がリラックスして、患者さんを傷つけることなく家族の歴史についても聞けるそうですが《人をほどほどにしか傷つけない月旦ができる》というのは確かに大きな効用かもしれません。ちなみに、日本人の血液型性格分析好きは欧米でも有名とか。

 こうしたいい加減さと実用性の高さは精神医学とも共通しているのかもれません。

|

« 更科堀井の「あられそば」 | Main | 「梅乃家」の大チャーシューメン »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/43213924

Listed below are links to weblogs that reference 『臨床瑣談』の連載:

« 更科堀井の「あられそば」 | Main | 「梅乃家」の大チャーシューメン »