『見えないアメリカ』
『見えないアメリカ』渡辺将人、講談社現代新書
4年に一度のアメリカ大統領選挙は、ワールドカップ予選と同じ長期戦。しかも、民主党に有利な「ブルーステーツ(青い州)」、共和党優位の「レッドステーツ(赤い州)」があって、サッカーでいうホーム&アウェイの戦いもある。これぐらいまではわかるけど、最初の頃、各州で行われる党員集会ってのがよくわからないし(有権者名簿に登録する時に民主党か共和党か無所属を選ぶメンバーシップではない組織になっているから選挙サイクルごとに流動するらしい p.175)、終盤戦の票固めのノウハウも今ひとつピンとこない。
太平洋と大西洋、それに大気圏外も軍事的に管理する唯一の超大国であるアメリカの最高権力者がどのような民意で決まっていくのか。その仕組みというよりも、今の「ブルーステーツ」と「レッドステーツ」の色分けがどういう経緯で固まっていったのか、そして時々、話題をさらう最近ではペローなどの第三の党を生みだす民衆の力は何を源泉としているのかを、少なくとも「なくとなく分かる」ところまで教えてくれます。こうした日本人にはなかなか分かりにくいところを説得力を持って書けるのは、著者がヒラリー・クリントン上院議員の選挙活動に参加することで得た草の根の情報があるからなんでしょう。
ヒラリーの選挙活動を手伝うことで、例えばスターバックス好きはリベラルだとか、クアーズビールを飲ませるようなダイナーが好きなのは保守系が多いといったところから、実は選挙戦術などは立てられているということがわかった、といいます。このほか、大都市はインナーシティに住むエスニックと、郊外のゲーデッドシティに住む豊かな人々に大きく色分けされるとか。しかし、同じ保守でも田舎に行けば、ナショナル・レビュー誌などは読まないし、逆に大都会に住む保守派はカントリー音楽などは聴かないなど、平均的な姿というのはなく、どんどん細分化されていきます。
個人的に面白かったといいますか、腑に落ちたのは、リンカーンは共和党で当時の民主党は黒人解放には基本的に反対の立場をとっていたんですが、いつの間にか、いまの南部は「 レッドステーツ」になっているという経緯が、歴史的にわかりやすく説明されている第三章「南部 怒りの独立王国」。南部は常にワシントンを敵とみなし、半ば独立国的な意識を持ち、こうした意識を背景に第三の党が生まれやすいといった図式もわかりやすい。
F・ルーズヴェルトのニューディール政策をもっと徹底して、北部の富裕層から南部の農民への所得移転を行えと主張した民主党のロング上院議員という人がいたそうですが、こうした分離主義者の例にもれず、彼は1935年に射殺されます。しかし、アンチ・ワシントンの雰囲気は脈々と息づき、それが民主党として吹き出したのが1964年の選挙に打って出たウォーレス・アラバマ州知事。彼は人種隔離を主張するとともに、反中央政府のポピュリズムを煽り、1964年の民主党の大統領候補者指名争いに破れると、次の68年には「アメリカ独立党」を立ち上げて13.5%の得票を得ます。これがそのままハンフリー上院議員に流れればニクソン政権は生まれなかったのですが、南北戦争などを考えると東部の公民権運動などを民主党が主導するのに反発する雰囲気が高まっていった、ここら辺から南部のレッドステーツ化は固まっていったような気がします。
支配的なイデオロギーが自由主義だけだ、というごく当たり前の視点だけは忘れないようにしようと思います。
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