『鮨水谷の悦楽』
『鮨水谷の悦楽』早川光、文春文庫
もう一年近くたってしまいましたが、ミシュラン星三つ記念での文庫版ということでしょうか。
映像分野出身の筆者が「鮨水谷」の一年間の皿盛りを12ヵ月分撮って、月ごとの盛込みについて、水谷さんから聞いた話をまとめたもの。
せっかくだから一貫ずつ写真を載せたからどうなのかな、と思いながら読んでいたのですが、十一月の章になって
昔から職人の腕は折詰を作らせるとわかるって言いますね。折詰を十個作らせて、ひとつひとつの折詰がどれも同じ目方になるというのが本当の鮨職人なんだと。握ったシャリの米粒の数を数えるよりも、こっちの方が確実に腕がわかります。それともうとつ、盛込みを一人前頼んでみるのも腕を見るにはいい方法です。今の職人はカウンターに立って一貫ずつ握る仕事しかしていないから、皿盛りをやれといってもできない。握り一貫だけみれば綺麗でも十貫を皿に並べたから形もばらばらっていうんじゃ、職人としては一人前とはいえません。
なるほどね(p.137)。
筆者も書いているように12枚掲載されている皿盛りは《完璧なまでのバランス、計算され尽くした色彩のアレンジ》を感じさせます。
赤貝は閖上(ゆりあげ)、トリ貝は三河湾、渥美半島、ショウガは近江ショウガ、アワビの中でも通称ビワッ貝と呼ばれるマダカアワビは房州(千葉)大原なんかを使っているというのも、なるほどね、と。
「旬のアナゴは木の香りがする」というのが六月に書かれていましたが(p.84)、また来年まで、しっかり生きて、こうしたアナゴを喰おうと思いました。つか、ずっと喰っていたいわけですがw
水谷さんは与志乃と次郎で修行なさったのですが、考えてみれば、吉野末吉さんと小野二郎さんに仕込まれたんですねぇ…。最近、寄らせてもらっている「はま田」のご主人は吉野末吉さんの最後のお弟子さんといわれる銀座青木の青木利勝さんのところで修行なさったというのですが、こうした系譜も含めて、今後も鮨を味わっていこうと思います。
水谷さんといえば、テレビの番組でヤニック・アレノにヒラメのおろし方を指導していた姿が印象的でした。皮が生臭さを生む原因だということ、一枚のヒラメをおろすのに20枚近くのまな板を使っていました。実際、パリの「ムーリス」まで行ってヒラメやスズキをおろす実演までやったと後書きで書いていますが、なるほどな、と。ともに07年版のミシュランで三つ星となったのは偶然ではないのかもしれません。
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