デリバティブは救い
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)であるレオ・メラメド名誉会長のインタビューが7/5(sat)の日経朝刊に掲載されています。会社でとっている方は、月曜日でも読んでみてください。
メラメド名誉会長はポーランド生まれのユダヤ人。生まれは1932年。1970年代に通貨・証券の先物取引を整えて「デリバティブの生みの親」と呼ばれています。同時に日本との関係も深く、リトアニアの杉原千畝さんによる所謂"命のビザ"で日本に出国できた一人でもあります。ネットで拾ったサンケイ新聞の記事によるとグリーンスパンFRB議長は「もしも、杉原千畝がいなかったら、メラメドも、金融先物取引も、デリバティブも生まれておらず、1980年代後半に米国で経済恐慌が発生していたかもしれない」と語っていたとのこと。
さて、日経の記事ですが、サブプライムローン問題の発生を機に「デリバティブ(金融派生商品)悪玉説」がまことしやかに流されていることに反発したインタビューです。
こうしたデリバティブ悪玉説にメラメド名誉会長は「デリバティブはもはや市場経済の根幹だ。売買を増やして流動性を高め、価格形成の透明性を高くする機能がある。株式や債券など現物の取引だけでは売買が限られる」と真っ向から批判を加えます。さらに「デリバティブ取引には損失ヘッジ、価格形成機能など様々なメリットがある。通貨先物が存在しなかったら、為替相場は今以上に激しく上下に振れるだろうし、(日本企業をはじめとする)企業は売買決済が難しくなる」とまで語ります。
ここらあたりは1985年のプラザ合意の後、一気に円高が進んだ時に、当時の盛田ソニー会長が「円高でもいいから、とにかく安定してくれないと決済ができない」とことあるごとに訴えていたことを思い出します。プラザ合意の意味というのは、宮沢元首相もどう評価していいかわからない、と自伝の中で語っていましたが、もしかして、変動相場制の舵取りを先物に任せるしかない、というのが本質的な"合意"だったのかな、なんてことも思ったりします。そうなると世界の財務担当者は一気にその存在価値をなくすわけで、大蔵のトップであり続けた宮沢さんが評価できないと最後まで語っていたのは、そんな意味もあったりして…。
サブプライムローン問題に関しては「(証券化商品など)一連の信用創造の過程で情報開示がなっていなかった点が問題だった」「格付け会社にも問題があった。格付けの条件となる経済データは日々変わっていくのに、更新が不徹底だった」「『欲』に目がくらみ、金融商品の価格形成の透明性確保を怠った業者が悪い」と情報開示の徹底を求めます。
なんか、風向きとしてはスケープゴートが格付け会社に行きそうな感じもしているので、格付会社への言及は納得的です。
また、原油を始めとする商品市場の高騰に関しては「今回の原油価格の高騰も石油輸出国機構(OPEC)という供給規制の非合理生を突いた結果だ」としており、穀物相場の高騰に関しては「(年金基金などの機関投資家は)穀物スワップと呼ばれる一種のデリハティブを証券会社から買う一方で、証券会社はヘッジ目的で商品先物を買う。これが最近の商品先物高騰につながった」と分析します。
このインタビュー中、メラルドさんは「ロング(長期)の米国債をショート(空売り)した」と記者は書いていますが、ここは「ロング(買い)の米国債をショート(空売り)した」と書かないとな…。
とにかく、構造改革イコール格差社会だから悪でスケープゴートをファンドやデリバティブというシステムなんかに求めるような単式簿記的なメチャクチャな発想が一般紙にも目立つような中で、個人的にはタイムリーなインタビューを読ませてもらった気がします。
まあ、ぼくは絶対に信用取引はしませんが「杉原氏は私に人生のヘッジ(リスク対策)を与えてくれたと感謝している」というメラルドさんの「信用危機はインフレを呼んだ。低金利で流動性が過剰にある」という投資判断は参考にしないと…。
『エスケープ・トゥ・ザ・フューチャーズ -ホロコーストからシカゴ先物市場へ』も読んでみようかな…。
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