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July 05, 2008

『歌舞伎の名セリフ 粋で鯔背なニッポン語』

Kabukiki_no_meizerifu

『歌舞伎の名セリフ 粋で鯔背なニッポン語』中村勘太郎、カッパ・ブックス

 実は(というほどのことはないのですが)、いまはずっと『ニーチェ』ハイデガーを読んでいます。

 尊敬していた田中小実昌さんは『存在と時間』をずっとカバンの中に入れて読んでいったそうですが、書き下ろしの『存在と時間』と比べて、講義録の『ニーチェ』はずっと読みやすいにしても、スラスラと読んでいけるようなものでもありません。

 前にやった長谷川宏訳のヘーゲル『法哲学』みたいな感じで、ライブで連載するような感じで書きたいとも思うのですが、しばらくは、合間に読んだ本の感想を忘れないうちに書いておこうと思います。

 さて、『歌舞伎の名セリフ 粋で鯔背なニッポン語』の著者、勘太郎さんはご存じ中村勘三郎さんの長男。長男らしく、家業をしっかりと勉強しています、という感じ。

 でも、それが歌舞伎となると、名ゼリフとはいっても『網模様灯篭菊桐(あみもようとうろのきくきり、通称・小猿七之助)』あたりが出てくるのが素晴らしいところ。

 収録されているのも「許してくだされ」と哀願する奥女中の滝川を土手に連れ込んで「蝗(いなご)やばったと割床に、露のなさけの草枕、おぬしとしっぽり濡れる気だ」といたしてしまう場面のセリフだったりするわけですが…。この滝川、ことが終わった後は《恥ずかしそうににっこり笑い〝もし、暑うござんしたなあ〟というセリフにいたっては、ぼくは最初ひっくりかえりそうになった。さっきまで〝許してくだされ〟と言ってたのは何なんだ》(p.29)というあたりの解説はいいですね。

 この芝居、ことが終わって、七之助が川で手を洗うところなどが生々しく、戦前は上映禁止だったそうです。いやー、ホントなかなか素晴らしいですね、歌舞伎ってのは。

 あと、近松の『曾根崎心中の』の道行きのシーン。

 「この世のなごり夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、仇しが原の道の霜、一足づつに消えてゆく、夢の夢こそあわれなれ。あれ数うれば暁の七つの時が六つ鳴りて残る一つが今生の鐘の響きの聞きおさめ」「寂滅為楽(じゃくめつゐらく)と響くなり」「鐘ばかりかは草も木も、空も名残と見上ぐれば、雲心なき水の音、北斗は冴えて影映(うつ)る、星の妹背の天の川、梅田(むめだ)の橋を鵲(かささぎ)の橋と契りていつまでも、われとそなたは女夫星(めおとぼし)」

 というあたりを《ほんと、声に出して読みたい日本語です》と語る勘太郎さんは素晴らしい。

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