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May 16, 2008

『軍需物資から見た戦国合戦』

Gunjubushi

『軍需物資から見た戦国合戦』盛本昌広、洋泉社新書

 もう何回書いたかわかりませんが、お手軽な参入と、数打ってちゃ外している末期的症状の新書業界において、洋泉社新書は本当によくやっています。今回も思わずタイトルだけ見て買ってしまいましたよ。著者の盛本昌広さんについてはほとんど存じ上げていないのですが(中央大学非常勤講師:日本中世・近世史というのが検索したら出てきましたが…)、洋泉社の編集者を信じて読んでみたら大正解。

 著者の問題意識があきらかにされる「はじめに」だけでグイグイ引き込まれます。

 曰く、テレビドラマで取り上げられる合戦のシーンや、合戦の屏風絵などをみても、柵に使われる木材は大量です。このほか主力の武器であるヤリの柄も木製(あるいは竹製)ですし、鉄砲をつくるのにも炭が必要です。さらには旗指物には竹が使われますし、夜になれば篝火が焚かれる。


 このように合戦を行うには大量の木や竹が必要であり、戦国時代には森林や竹林の伐採が盛んに行われた。だが、無制限に伐採を行うと森林資源が枯渇し、合戦を続けていくことが困難になっていく。そのため、過度な伐採をしないように、森林資源を管理する必要がある。合戦を行う主体である戦国大名はこうした点に気を配らなければならなかったである。

 うーん、素晴らしい。気がつかなかったな…。

 こうした森林利用と保護の環境マネジメントを、主に北条氏の文献を中心にみていくのが本書。

 北条早雲は領民に慕われる領地経営を行ったパイオニアともいわれていますが、その流れを汲む北条氏は、森林資源に関してもサステイナビリティの考えを持ちながら管理していったという気がします。

 こういった政治的な観点だけでなく、栗は生長が早い反面


堅く長持ちし、腐りにくい性質がある。以前は鉄道の枕木に利用されていたのも、雨にあたっても腐りにくく、堅くて丈夫な性質に基づいている(p.31)。

 なんてあたりもいいなぁ。網野善彦さんが、日本の歴史家はもっと栗の木について知らなければならないとどこかで書いていましたが、改めて栗と日本の歴史に想いを致します。

 あと、上杉謙信は関東侵入の際に放火を繰り返し、そのためにはげ山になった山も多くなり、天正11年(1583年)の大雨で利根川水系が大氾濫を起す遠因となった、みたいなことも知らなかったな(p.208)。

 著者によると戦国大名は植林を行い、北条氏さかんに木を「はやす」ことを命じていたそうですが(そもそも「林」は「はやす」からきている)、そんなあたりも刺激的(p.188)。

 あと、鷹狩りは領有宣言でもあった、なんていうのも知らなかったな(p.159)。

 とにかく、日本の戦国大名はいろいろちゃんとしているな、と改めて思いましたね。

 日本の歴史の中で、農民が自分たちの親分を担いで支配を行うというリアリティが鎌倉時代以降、1000年近く続いたことが、どれほど大きな意味を持つか、ということも改めて実感しました。

 とにかく、この本、素晴らしい。

 ぜひ。

「春の夜の夢の浮橋とだえして嶺にわかるゝよこ雲のそら」 藤原定家

これは技巧の極北のような歌だと思うのですが、この浮橋は舟を並べた上に板を渡した舟橋ではないか、ということを、この本を読みながら始めて思い至りました。それまでは、なんか勝手に太鼓橋みたいなイメージだったのですが…

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Comments

黒田基樹『百姓から見た戦国大名』(ちくま新書)を読んで、上からの支配よりも、下からの要求と支持動員がいかに重要であったかという側面が見えてきましたので、本書も入手したくなりました。
時代は遡りますが、榎原雅治『中世の東海道をゆく 京から鎌倉へ、旅路の風景』(中公新書)は楽しめました。歴史学の手堅い実証、地震学や潮汐推算で特定日時の潮位を推定する自然科学との共同で、当時の旅日記を紐解く作業は面白いです。五十三次の浮世絵で我々がイメージする近世の東海道とは別の風景が広がっていたことが見えてきます。

Posted by: hisa | June 04, 2008 at 12:18 PM

『百姓から見た戦国大名』、『中世の東海道をゆく』も読んでみたいと思います!
東海道はいつか岩本みたいにブラブラと歩いてみたいんですよねぇ

Posted by: pata | June 04, 2008 at 12:27 PM

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