『ハイデガー拾い読み』
『ハイデガー拾い読み』木田元、新書館
ハイデガーならぬ、木田先生の拾い読みを続けています。
ご多分に漏れず『存在と時間』は読むには読みましたが、ほとんど字を追っていただけ。なんも残りませんでしたね。これはヘーゲルもそうで、長谷川宏訳が出るまでは、わけも分からずただゴリゴリと読んでいました。
でね、最近、木田先生の本を読んでいて、なるほどなと思ったんですが、カント以降、哲学者は大学教授がほとんどになった、と。あのニーチェでさえ、最初はギリシアの古典哲学を教えていた、と。そうなると、主著というか書き下ろしの著作というのは、学問的な批判が恐ろしいからか慎重に書くとともに、推敲を重ねすぎてあまりにも省略が多いためか、とにかく難しい、と。その点、講義録は《噛んでふくめるといった感じの分かりやすさがある》(あとがき、p.225)と思います。アリストテレスの著作もほとんど失われましたが、講義録だけはかなり残っています。それは、残るべき本だけが残ったというよりも、やはり読む価値があったからなのかな、と(ヘーゲルの本でも圧倒的に面白いのは講義録ですもんね)。
ということで、『ハイデガー拾い読み』はハイデガー全集の中から、木田先生お勧めの講義録を解説して、いつもの講釈を披露してくれる、といった感じの本です。
印象に残ったところは二つ。
まずは「世界内存在 In-der-Welt-sein」というハイデガーというハイデガーの造語がどこから来たのかという問題。
ひとつはユクスキュルの「環境世界理論」からの影響。環境世界理論とは《動物それぞれの種にはそれぞれ特有の環境世界(ウムウェルト)-その構造は、当該種の受容器つまり感覚器官と実行器官の特性に依存している-があり、動物は受容器と実行機器を介してその環境世界と<機能環>とも言うべき適応関係を取り結んでおり、その環境世界に適応しているそのかぎりで動物として生存しうるという考え方》(p.60)だそうで、シェラーはユイキュルのこの理論をふまえ、同じような視点から人間のあり方を見てゆく哲学的人類学をも構想していたというんですね。シェラーは動物がこうした環境世界に没入させられているのに対し、精神的存在者である人間だけが、こうした繁縛を脱して「対象的世界」という開かれた場面に開在することができる(世界開在性)と主張したらしんですが、こうした生物学的発想をふまえてハイデガーの「世界内存在」を考えれば、理解しやすいんじゃないのか、と。
さらに「世界内存在」という言葉そのものは岡倉天心が英語で書いた"The Book of Tea(茶の本)"で紹介されている荘子の「処世」をBeing In The Worldを訳したのに影響を受けたのではないか、という話。後に東大哲学科教授となった伊藤吉之助がドイツ時代に家庭教師にやとったのがハイデガー(第一次大戦後だったので、いいアルバイトになったとか)。そのハイデガーに『茶の本』の独訳"Das Buck von Tee"を手渡したのが1919だそうで、1927年に『存在と時間』が世に出る前だったというあたりも(p.177-)、剽窃うんぬんは別として「世界内存在」という言葉がぐっと身近に感じられるようになりました。
とにかく《語られたことを認識しようという熱情(ライデンシャフト、Leidenschaft)》(p.169)みたいなものを少し満足させてもらえたような気がします。
少し閑話休題ですが、Leidenschaftに関してググッていたら、こちらの素晴らしいサイトに出会いました。寺門伸先生、これからも、時々、読ませていただきます。
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