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April 14, 2008

『股旅フットボール』

Matatabi_football

『股旅フットボール 地域リーグから見たJリーグ「百年構想」の光と影』宇都宮徹壱、東邦出版

 『サポーター新世紀 ナショナリズムと帰属意識』『幻のサッカー王国 スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』とこれまでも、サッカーを通して、帰属意識というか心の拠り所としてのナショナリズムについて書いてきた宇都宮徹壱さんが、初めて日本のサッカー、それもトップリーグのJ1からすれば4部にあたる地域リーグのチームを取材した連載をまとめたのが、この本。書き下ろしではなく、今はなき「サッカーJ+」の連載をまとめ、それに短く後日談を載せたという体裁。

 宇都宮さんは『ディナモ・フットボール』にしても、観客があまり入っていないスタジアムでの試合が好きなようです。ほとんど忘れかけられている存在なのに、プレーしている選手たちは歴史を背負わされ、遠大な目標の達成を求められているーそんなアンバランスさも好きなんでしょうかね。ディナモ・トリビシの盛り上がらない試合が行われているだだっ広いスタジアムの中で、ソ連製の古い一眼レフZenit(ゼニート)を構える年老いたフォトグラファーとやりとりする場面は『ディナモ・フットボール』の中で、個人的にもっとも好きなところ。

 しかし、それから早くも8年。急速に進む経済統合と、商品相場の急騰による旧ソ連圏の経済復興により、かつてのフットボールの辺境はどんどん西欧の文化に均一化され、筆者は興味を失っていきます(p.10)。

 そんな時に立ち上がってきた対象が日本の4部リーグである地域リーグ。取り上げられているチームはグルージャ盛岡、V・ファーレン長崎、ファジアーノ岡山FC、ツエーゲン金沢、カマタマーレ讃岐、FC岐阜、FC Mi-O びわこ Kusatsu、FC町田ゼルビア、ノルブリッツ北海道FC、とかちフェアスカイ ジェネシス。そしてこれらのチームがJリーグ入りを目指して争う全国社会人サッカー選手権大会と全国地域リーグ決勝大会の過酷な戦いをレポートしているのがこの本です。

 連載の初めとなるグルージャ盛岡、V・ファーレン長崎あたりは手探りのような印象ですが、ファジアーノ岡山FCあたりから視点がハッキリしてきます。ひとことでいって、それは『街道をゆく』のサッカー版ではないか、ということ。サッカーを切り口に、その地域の歴史が鮮やかに浮かび上がってきます。グルージャ盛岡は南部藩の向い鶴をアイコンにしていますし、ファジアーノ岡山FCは桃太郎伝説のキジがマスコット。短いながらも、それぞれのチームにも歴史があります。例えばファジアーノ岡山はヴィッセルと同じ川鉄をルーツにしていますし、FC Mi-O びわこ Kusatsuの前身は佐川京都。そして、ツエーゲン金沢はさすが加賀百万石という感じのインフラをバックにしているとか、《「香川で誇れるものといったら、うどんしかない」と関係者は口を揃える。よくいえば謙虚、悪くいえば自虐的》なカマタマーレ讃岐などの話は面白いというか、いちいち納得的(p.112)。

 Jを目指すこれらのチームに共通していると感じるのは、日本の中でいまひとつ地味な地域を本拠地にしていること。例えば岡山。ぼくは個人的に岡山というのは非常に民度の高いところだと思います。旧制六高だって置かれていましたし(そういえば今年、J2に昇格した熊本にも首相二人を出している五高がありました)、後楽園だってある。でも、いまひとつインパクトに欠けます。スポーツ選手に喩えるならば技術、体格、運動能力のどれもまとまっているけど、突出したところがない、みたいな。でも、ないものを嘆いていてもはじまりません。とにかく、いまの本拠地をベースに地域振興を図ろうとして、手に入る様々な素材をブリコラージュしてとりあえず立ち上げたのが、ここでとりあげられたチームなのかな、と。

 川淵さんがJの初代チェアマンだった時、プロ野球(NPB)と比べてJのチームのバックとなっている企業は、はるかに優良だと誇らしげに語っていたことを覚えています。トヨタ、パナソニック、日産、JR東日本に古河電工、住友金属工業、マツダ、三菱自動車などなど。こうした大企業のサッカー部を母胎としてオリジナルのJ1チームは巣立っていきました。さらに、JFLからJ2のチームが生まれ、いまや、33チーム。47都道府県の過半数は超えたわけですが、まだ、Jを持たない地域はあります。参入規制が厳しく、事実上、新規参入が閉ざされているプロ野球と違って、サッカーの場合は頑張れば地域のプロチームを持てるわけですから、遅ればせながら頑張るのでしょう。まるで戦国大名みたいな雰囲気を持ったオーナーもいるのには嬉しくなってしまいます。ああいった人たちなんでしょうね、地侍から下克上でのし上がっていったような人たちの雰囲気は。さらには竹中半兵衛みたいな参謀タイプのエリートフロントもいたりして今の"リアルサカつく"状況は本当にワクワクさせられます。

 しかし、同じように地域振興を考えるチームが増えれば、競争は激しくなります。北信越フットボールリーグ1部なんか、JFL入りを目指すクラブばかりだし、地域リーグからJFLへの昇格は、いまや最も狭き門になっていて、勝ち抜けのために、つい、この間まではなんでもありのレンタル合戦になっていたとか、信じられませんでした。それが禁止され後も、アトランタ五輪にも出場した元G大阪の森岡茂なんかも出ているのには驚き。

 その過酷さに著者は副題にあるような「光と影」を感じるのですが、どちらかというと、ぼくは個人的に希望の光を見ました。

【目次】
いざ「百年構想」の最前線へ――/「股旅フットボール」著者による前口上
vol.01 イーハトーヴにJクラブを/グルージャ盛岡
vol.02 夢、すなわち目標/V・ファーレン長崎
vol.03 「夢見る時代」の終わりに/ファジアーノ岡山FC
vol.04 加賀百万石のリアル「サカつく」/ツエーゲン金沢
vol.05 瀬戸の海を越えて/カマタマーレ讃岐
vol.06 凛としたクラブを目指して/FC岐阜
vol.07 「人生を懸けた」アマチュアの大会/第30回全国地域リーグ決勝大会
vol.08 群雄割拠の湖国を行く/FC Mi-O びわこ Kusatsu
vol.09 変わりゆく風景の中で/FC町田ゼルビア
vol.10 北の大地で種蒔く人々/ノルブリッツ北海道FC&とかちフェアスカイ ジェネシス
vol.11 「全社」という名のバトル・ロワイヤル/第43回全国社会人サッカー選手権大会
vol.12 「J」の付く場所を求めて/第31回全国地域リーグ決勝大会
「謀反の物語」/「股旅フットボール」あとがきに代えて

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