『世界自動車戦争論』
『世界自動車戦争論1 ブランドの世紀』福野礼一郎、双葉社
自動車専門誌ではCar Graphic誌、ル・ボラン誌ぐらいでしか福野さんの新しい記事は読めなくなってきていますが、そんな中で楽しみなのが幻冬舎のゲーテ誌「如何にしてブランドはカタチを作り、カタチはブランドにイメージを与えるのか」の連載。さすが幻冬舎の編集長は素晴らしい。これまで書かれてきたような話は極力排している感じがします。
でも、この連載のモチーフは『最後の自動車ロン』に書いてあった《ハイアール(日本進出の中国家電)の女社長がこんなことを言ってたな。「企業の財産はブランドである。その他すべては負債に等しい」》(p.136)でしょうね。それが副題にあらわれています。
驚くのが、いきなり日産のGT-Rをベタ褒めしていること。
こんなに思い切りのいい機械を日本人が作ったのは太平洋戦争にボロ負けして以来初めてじゃないかな。こいつは零戦ですよ。(p.8)
これまでスカイラインシリーズをボロクソにけなしていた福野さんがなぜ…と思いますが、「企業の財産はブランドである。その他すべては負債に等しい」という言葉を知っていれば疑問は氷解します。
スポーツカーとしては矛盾だらけのGT-Rが許される理由、認められる理由も、それがブランドだからじゃないんでしょうか(中略)。言ってみればいびつなスポーツカーであることそれそのものがGT-Rの神話の一条件なんですよ(p.30-)なるほど、だからハッキリ言っては申し訳ないですがカエルみたいなフェイスのポルシェもカッコ良いと一般的には思われているわけなんだろうな、と。それは、なにせブランドなんですから、と。
シトロエンもC6というクルマを出しましたが、これはハードトップ構造です。ですからガラスのたてつけとか走っているうちに相当、悪くなる、と。10年10万km走ったらガタピシになりそうなボディだが、そもそもシトロエンにそんな乗る人はいないのでOKなんだ、とまで福野さんは書いています(p.192)。シトロエンの話で思い出すのは同じフランス製のカメラであるフォカ(FOCA)。エスプリだけでつくられたようなこのレンジファインダーは、時折、素晴らしい描写を見せてくれますが、良く壊れました。
また、連載のテーマがハッキリ書かれているのはここでしょうね。
90年代初頭のEU統合/東欧解放で突如生まれたヨーロッパ一大自由マーケット圏は、世界自動車戦争の勃発を励起し、自動車産業を資本統合・ブランド再編という過酷な生き残り競争に叩き込んだのだが、BMWはそこにあってブランドイメージと商品力を顕示しミニとロールスロイスを傘下にしたがえ、世界10メガマニファクチュアの一翼を確保している。これは少なくとも「大勝利」である(p.225)。
経済の面で少し心配なのが、インドのタタ財閥がBMWとフォードがしゃぶりとって骨だけになったなったような「ジャガー」と「ランド・ローバー」を買収することで合意したそうですが、大丈夫なんかいな…と心配になってきます。かつての宗主国の高級自動車メーカーを買収するというのはマイノリティであるゾロアスター教徒のタタ一族にとって、インドで英雄視されるためのには必要な所作なのかもしれませんし、それこそブランドの効用なのかもしれませんが。
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