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April 13, 2008

『理性の奪還』

Assault_on_reason

『理性の奪還』アル・ゴア、ランダムハウス講談社

 正直いって、ここまで激しいブッシュ批判をゴア元副大統領がいまだに繰り広げているとは思いませんでした。大統領選挙の敗北は現代社会において究極の敗北ですが、いまだその怒りが収まらないのか、ブッシュはアメリカ社会を変質させてしまったと日本語版440頁にわたって非難しまくっています。

 ブッシュ=チェイニー政権は9.11以降、人々の恐怖をあおり立てることによって、独立した個人が理性的に判断するというアメリカ建国以来の民主主義の伝統を破壊しようとしている、と。共和党政権が続けば《アルカイダの攻撃が迫っているという通告を受け、それに対応しなかった。ニューオリンズの堤防が決壊するという警告を受け、それに対応しなかった。そしていま、人類文明史上最悪の災難が起こるという警告が、科学界から発せられている》(p.331)にもかかわらず、温暖化対策を骨抜きにするだろう、と。

 温暖化対策の部分については、それこそゴア元副大統領の方が恐怖をあおり立てているんじゃないかと思うのですが、それはおいといて、少しはサマリーしておきましょうか。


 究極の戦いに負けた理由をやはり敗軍の将としてはさりげなく語っておきたいのかな、と思ったのが、《"被統治者の同意"すなわち「国民の意見」はコマーシャルの最高入札者によって購入される商品》になっているという指摘(p.20)。そして有権者の多くは文字を読まず、1日平均4.5時間テレビを見るような人々であり、そのテレビも「血まみれならばトップ扱い」「頭を使うものはゴミ扱い」という方針で運営されており、ニュース番組でさえ「低俗で、ケバケバしい」ものになりはてた、と(p.31-)。これって、小泉政権が郵政選挙でメインターゲットとしたB層(IQが低く、テレビばかり見ているから小泉さんの発する構造改革メッセージに肯定的な層)と同じだなと思いました(序論)。


 『エモーショナル・ブレイン』のルドゥー博士の見解も援引用しつつ、《市民が感情に左右されない冷静な理性を持つ、という啓蒙思想のモデルは、事実上破綻している》(p.51)などペシミスティックな視点が目立ちます。そしてテレビで繰り返し映し出された9.11の被害によって、多くのアメリカ国民は強いストレス症状に陥った、と。感情による判断と、なぜテレビをこれほど多くの人々が見るのか、という疑問への答は「定位反応はDNAに組みこまれている」など脳に関する研究に寄っかかっています。そして、ブッシュ大統領が語っているのではなく、ニクソンが語ったとされる言葉を引用して、共和党政権というものは《「人々が反応するのは恐怖だ。愛ではない。このことは日曜学校では教えてくれないが、真実だ」》(p.74)という方針で運営されている、とコキおろします(第一章 恐怖の政策)。


 ゴアという人は科学的な比喩を使うことが好きだな、という印象がますますつのります(あ、小生はチラッと立ち読みしただけですが情動的すぎると思ったので『不都合な真実』は読んでいません)。第二章でも、読み書きの能力が不足していることは民主主義にとって免疫システムが弱まってることだ、と書いています(p.188-)。《読み書きの顕著な衰退傾向-そしてテレビコマーシャルによる新しい恐怖の連続爆撃、さらにその恐怖のための解決策のように偽装された短絡的な特効薬。これらのせいで、アメリカの民主主義は免疫系障害を起し》ている、と(第二章 妄信の政策)。


 しかし、右派の《互いになんの共通性もない利益団体同士の連合》(p.105)によって、共和党の政策が決定され、国民の支持まで巧妙に得ているという指摘は、それこそ、民主党側の被害妄想じゃないかと思います。民主党は共和党の大統領候補をとてつもない右派のモンスターであると決めつけるので、そんなことはないよ、と笑ってみせるだけで勝ててしまうことを立証したのはレーガンでしたが、民主党の被害妄想的なDNAも相当、強いなとも感じました(第三章 富の政策)。


 《現代のアメリカにおいては、高額の資金を集められる候補者がうわべだけの政治的主張だけでも優位に立つことが保証される。その主張を有権者は誰かに投票するかを決める基準としているのであ》り、そうした政治的コマーシャルはエリートたちからの献金によってまかなわれており《いまや有権者の意見など、金で買えるマス広告キャンペーンによって思うようにコントロールできる》(p.129)というようなことが延々と書かれています(第四章 好都合な非真実)。


 ブッシュ大統領が最も信頼する情報源にしているのは、気候変動に関してはエクソンモービルであり、環境に与える化学物質の影響問題に関しては化学薬品会社であり、新薬の健康上のリスクに関しては製薬メーカーで、公益を代表する独立アナリストによる意見は無視する、とコキおろしています(p.189)。それはブッシュ=チェイニー政権が公益という概念を蔑視しているからであり、真実を外部に発注した、とまで書いています。真実のアウトソーシング、というような言い方は、さすがに政治家、口喧嘩は上手いな、と。ただ、大学も卒業しておらず、もちろん科学教育も受けていない人物がNASAの政治任命職員になって、ビッグバンに関して宗教的な見地から仮説として扱うよう研究者に指示を出したというのは(p.199)、冗談半分にしても宗教右翼はひどいなと思いますが(第五章 個人への攻撃)。

 疲れたし、後の展開もそれほどではないので、やめますが、これほどペシミスティックな見解を述べた後で、それでもアメリカの民主主義はインターネットに接続された市民たちの連合によって再生されるといのは、付け焼き刃的な結論のように感じます(第九章 しっかりと接続された市民)。

 つまんない言い方ですが、この本を読んで感じたのはレッド・ステーツ(保守的な共和党の州)とブルー・ステーツ(リベラルな民主党の州)の分裂がより深まったんじゃないかという印象です。

Red_states

【大統領選ヨタ話】

 ぼくのアメリカ理解なんていうのは随分レベルの低いものですが、それでも、最近の民主党の躍進ぶりには驚かさせれます。なんつったって、アメリカっていやぁ、北爆強化しまくったニクソンを再選し、モンスター右翼と思われていたレーガンでさえ現役の民主党大統領カーターを軽々と破ってしまい、経済がよくなったらブッシュ・ジュニアに8年も任せてしまうような保守的な国なんすから。

 でも、今回のサブプライム問題に端を発するリセッションが骨身に応えるのか、あまりにもブッシュ・ジュニアの政権が欺瞞に満ちていたのか、どうも民主党が大統領選挙でも久々にイイらしいと感じていて、どこから風向きが変わっていたんだろうな、と思っていたんですが、思いついたのが昨年、"The Assault on Reason" Al Gore がベストセラーになったあたりからなのかな…ということ。

 子どもながら、最初にアメリカ大統領選挙を意識したのはハンフリーvs.ニクソンの1968年です。ロバート・ケネディが暗殺されなければ彼が勝っていたと思いますが、それでもベトナム戦争が泥沼化しているのにニクソンが勝ったということに驚きました。

 1972年はマクガバンが反戦のみを訴えていて民主党の指名は勝ち取りましたが、本選挙は最初から負けるだろうと言われていました。ヒラリーはマクガバンの選挙運動に最初、参加したと思いますが、こういったところは左翼嫌いの中西部にはまったく受けいれられないんじゃないのか、と素人ながらも思っています(東西の海岸沿いの州と五大湖周辺の工業地域というブルー・ステーツを除けば、残りの大部分は今やレッド・ステーツとなりましたし)。

 76年こそウォーターゲート事件にイヤ気がさして、カーターが勝ちましたが、あまりにも無能だったので、80年には現職なのにレーガンに圧敗。

 84年なんかモンデールはミネソタとワシントンD.C.だけですよ勝ったの。

 88年もデュカキスの玉が悪すぎましたが、またもやブッシュ・シニアが圧勝。

 景気が悪くなったのと、増税に手をつけたのがアダになり、92年にやっとクリントンが勝利したものの、バイブルベルトは共和党がガッチリ押さえていました。

 この傾向は96年も変わりませんでした。

 2000年にはブッシュが州の数では両岸以外はほぼパーフェクトで勝利。赤青の塗り分けだと「共和党強いな」という感じで、2004年もそうでしたよね。

 ということで、ぼくはよっぽどのことがない限り、民主党は大統領選挙では勝てないと思っているのですが、今回のイラク戦争がその「よっぽど」に当たるかな…と思うんですが、同時にベトナムほどじゃないので、どうなのかな、と…。

 つか、ぼくは個人的にアメリカというのは本当に保守的な国だと思っているので、オバマがマクガバンのようにならないかと心配です。

 長々と床屋政談をしてしまいました。すんません。

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