« 『カイバル』のカイバルスペシャル | Main | Born to run 30年ぶりの解読 »

April 18, 2008

『「心」が支配される日』

Mind_control_society

『「心」が支配される日』斎藤貴男、筑摩書房

 例によって小田中直樹先生の「おすすめ」ということで、あまり普段は食指が動かないジャンルですがサクッと読んでみました。個人的な興味は、権力といいますか統治の最もスマートな形態としての「動員」。被統治者が管理されているとは思わないまま、ある方向にレミングのように動員されるといいうのは、個人的には最悪なイメージなわけですが、この本を読んで、まさに政府・自民党もそうした方向を重視していて、ちょっと油断しているとすぐに教育現場に手を突っ込んでくるという恐ろしさを感じるとともに、なんとなくではありますが「このぐらいのズサンさならば、またヘタ打ちそうだな」という安心感も湧いてくるような内容でした。

 「ヘタ打ちそうだな」と感じたのは、「心のノート」を中心とした道徳教育の内容といいますかコンセプトには、なんといいますかサプライヤーとコンシューマーの利害の一致がないと感じたから。

 『心脳コントロール社会』小森陽一、ちくま新書や『フーコーの穴 統計学と統治の現在』重田園江、木鐸社を読んで感じたのは、確かに無意識に何百回もある傾向のメッセージを与え続ければ、それなりの効果はあるかもしれないけれど、被統治者が自発的な行動に出るのには、被統治者側にも具体的なメリットがなければ難しいんじゃないか、と思ったんですよ。

 例えば催眠術では自殺に導けないということをどこかで読んだことがありますが、そんなイメージでしょうか。

 だから『フーコーの穴』を読んだ直後は「そうか、オレは健康志向に動員されていて、ちょっとカッコ悪いかも」と思いましたが、よくよく考えると「でも、健康が一番というのはプレイン&シンプルな真実じゃない。老人医療費がかさまないようにしたいという権力の側の欲求が、健康志向とマッチしていたからといって、個人が恥ずかしがる必要はない」と思うようになりました。

 で、この本で読んだ程度のクオリティならば「心のノート」は大した痕跡は残せないとは思いつつも、「心のノート」なんていのうトンデモ本がいつの間にか道徳の時間に使われているという事実には、まったく知らなかったので少しだけ驚きました。

 「心のノート」の監修者として名前を貸した格好になっている河合隼雄さんがあっけらかんとインタビューで答えているように「(今の子どもたちは)ものすごく自由なんですよ」「僕は今の子どもに対する信頼感は大きいんですね。問題は、それを引き出すための大人の努力がなさすぎることなんです」という言い方で大丈夫なんじゃないかな、とは思うんですけどね…。個人的な経験だけですが、小学校から大学まで面白いと思って聴きほれた授業なんと数えるほどでしたし、この「心のノート」自体「(どうせつくるなら)曖昧な部分をそのままにしておかないで、きちんと議論する叩き台か必要なのだ」という山崎正和さんの主張を一度は通してみるか、といった程度の腰の据わり方だったんでしょうから。

 日本の政府・自民党なんて、まだまだぶっちゃけてないですよ。著者は山崎正和さんが文部省の懇談会でまとめた文章に《国家にとって教育とは一つの統治行為だということである》(p.256)という文言があるのに驚いていますが、例えば、グリーンスパンなんて、アメリカ社会の問題点はインフラを維持・運営する人材が初等・中等教育の機能不全によって自前で養成できないことだとして《中程度のスキルの人材を選抜するのに、まともな文章が書けないとか、足し算引き算ができないといった理由で落とさねばならない現状》に対して怒りをぶつけています(『波乱の時代 The Age of Turbulance(下)』p.182、p.196)。クリアカットな新自由主義者のような人にとって、初等・中等教育を受けただけで社会に出る人びとは「インフラの維持・管理要員」なんでしょう。まだまだ、日本の御用学者の人なんて性善説にのってる分だけ可愛いいもんだといいますか、儒教の伝統を感じて好ましいぐらいです。

 だから、個人的には、そのトイレ掃除が暴走軸対策に使われているからといって「日本を美しくする会」を格差社会を助長するものだ位置づけるのは書きすぎだと思います(p.297)。トイレ掃除は武道のノリなんだ思います。ぼく自身は参加しないですが、それはぼく自身が武道に惹かれないのとパラレルです。さらにいえば、それは自衛隊のイラク先遣隊の佐藤正久一等陸左が、もし近くにいるオランダ軍が襲われたら、巻き込まれ型で応戦すると語ったことに対して、柳条湖事件を持ち出して非難している市民グループと同じぐらい非現実的な話だと思いました(p.327)

 そうはいっても、エセ科学そのものといった感じの『水からの伝言』というのがあるのを初めて知ったのですが、それが教育現場で人気だというのにはちょっと背筋が寒くなる思いがしたことは事実です。ここまで教員のレベルは落ちたのか、と。さもありなん、と。それにしても文科省は二流官庁だな、と。

|

« 『カイバル』のカイバルスペシャル | Main | Born to run 30年ぶりの解読 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/40917702

Listed below are links to weblogs that reference 『「心」が支配される日』:

« 『カイバル』のカイバルスペシャル | Main | Born to run 30年ぶりの解読 »