« Born to run 30年ぶりの解読 | Main | 「清風楼」のシューマイ »

April 20, 2008

東山魁夷の『濤声』

Higashiyama_kaii_100th_1

 東京国立近代美術館で開かれている『生誕100年 東山魁夷展』に行ってきました。

 美術に関しては語れるほどのセンスも知識もありませんが、このぐらいの歳になりますと、好きな作品を好きだと正直に語ることがあまり恥ずかしくなくなってきました。ということで東山魁夷さん、大好きなんす。

 それこそ中学か高校生の頃から。

 最初にビックリしたのは今回の展覧会のパンフレットの裏表紙にもなっている『花明り』でしょうかね。あまりにも単純な構図。誰でも美しいと思うであろう平易な表現。しかし、どこかに深さも感じさせる。世の中にはこんなものがあるんだな、と。おそらく、とんでもない修行や個人的な体験を経た上でしか到達できない力量といいますか、さらにそこから還相してきた美といいますかね、そんなものを感じました。

 ということですが、混んでいるところで『残照』なんかと向き合うのはイヤなので、時間を見つけてサクッと行ってきましたですよ。

 入ってすぐの習作期の作品を過ぎるといきなり『残照』。この作品を前にすると何も考えなくていいと感じるんですよね。それは、敗戦直後、千葉県鹿野山の九十九谷の風景と向き合って作者が考えつくしてくれているという安心感があるからでしょうか。山登りは好きではないのですが、いつか、この場所に立ってみたいと思います。

 それほど有名な作品ではないかもしれませんが「郷愁」も良かったな…。手前に向かって川が流れていますが、画面奥の方ではTの字のように薄れています。うっすらと線にしか見えない川。このTの字のモチーフといいますかやがて線になる構図は「道」も持っていると思いましたが、どんなもんなんでしょうかね。

 「ヨーロッパの風景」と名づけられた順路をすぎると、次は「白馬のいる風景」。これまで白馬のシリーズは画集なんかで見ていると「少しあざといんじゃないかと」と思っていましたが、その薄さ、白さ、はかなさを目の当たりにすると、切実なものだったんだな、と思うようになりました。それまでは風景画が白馬に邪魔されていると思ってんですが、白馬が主題で、風景が支えている、という印象にかわりました。

 東山魁夷さんは風景と静かに向き合いながらも、叫び出したいような気分を抑えながら淡々とした風情で描いていたんじゃないのかな、と思うようになってきます。

 そして川端康成さんから京都を描いたらどうかと薦められて書き始めたというシリーズに移っていきます。その中には初めてみた時から心奪われた「花明り」。「曙」も美しい。

 「町・建物」「窓」「モノクロームと黒」と展示の主題は移っていき、いよいよ唐招提寺の障壁画を作成するためのスケッチに。もうこの時点で「濤声」のスケッチにはやられてしまったんですが、展示も最終章「終わりなき旅」に。

Higashiyama_kaii_100th_2

 寒さに耐える山鳩が痛切な「白い朝」はよかったですし、絶筆となった「夕星」の宵の明星が金箔で描かれているというのには感動しました。そして、その少し前に描かれた「行く秋」にも金箔がふんだんに使われています。それまで、金箔を使ったような作品はなかったと思うので、亡くなった家族を4本の木になぞらえて描いたという「夕星」を完璧にするため、最後に金箔の技法を学んだのでしょうか。最後まで自分を高めようとして新しい技術に挑んだのでしょうかね。

 そして二階に。

 まさか見られると思わなかった唐招提寺の「濤声」が展示されていました。

 香りも新しい畳が敷かれたその向こうに「濤声」は横20メートルにわたって存在していました。

 これを、この環境で見ることができただけで良かったです。

 パンフレットも素晴らしい。いわゆるペラですが、表1が「道」。見開きには12点の作品が解説とともに並べられ、表4が「花明り」。縦絵の代表作が2つあると、こうした構成もラクに出来るんだな、と感じた次第。

 展覧会ではいつも1枚だけポストカードを買って帰るのですが、この日は「残照」にしました。

|

« Born to run 30年ぶりの解読 | Main | 「清風楼」のシューマイ »

文化・芸術」カテゴリの記事

Comments

2004年に横浜美術館で開催された東山魁夷展のカタログを
久しぶりに開きました。
「夕静寂」の前でずいぶん長い時間佇んでいたことを思い
出しました。
この絵に添えられた文章。
「私の作品にあらわれる静謐、素純は、むしろ、それを持
たぬ故に希望する、切実な祈りとも云える。」
ご自身の真摯な姿勢にも深い感銘を受ける画家の一人です。

Posted by: しまじろう | April 20, 2008 at 11:37 PM

テレビ東京でつくられた特別番組『すみ夫人が見た素顔の巨匠』と美の巨人たちの『残照』をみても、マジメそのものですよね。唐招提寺の仕事もスケッチ、1/10の試作を経て作品を仕上げていくんですから…素晴らしかったですよね…時間見つけてというか、途中で入れ替えもあるので、もう1回ぐらい行きたいと思っています

Posted by: pata | April 21, 2008 at 12:19 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/40941205

Listed below are links to weblogs that reference 東山魁夷の『濤声』:

« Born to run 30年ぶりの解読 | Main | 「清風楼」のシューマイ »