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March 12, 2008

ビックス『昭和天皇』

Hirohito

『昭和天皇(下) 』ハーバート・ビックス著、吉田裕訳、講談社

 昭和天皇像というのは揺れ動いています。端的にいえば「戦う元帥で領土拡大熱にとらわれていた」いうビックスの『昭和天皇(原題は"HIROHITO")』のような見方から、「イギリス流の立憲君主制を理想としてストイックに自己規制していた天皇」というオーソドックスな見解、さらには最新の原武史『昭和天皇』のような「祈るだけの実権なき平和主義者としての天皇」像まで、グラデーションは豊かです。

 原武史『昭和天皇』を読んだ後、「これは中和しないとな…」と思い、読んでいなかったビックス『昭和天皇』を下巻だけ読んでみました。

 様々な議論がある本だということは承知ですし、学術書とはいえないような想像力を働かせているところも散見されます。しかも、資料も片寄っているように感じます。

 しかし、軍部に鋭い質間を皆に浴ぴせかけ、陸軍と海軍の反目の中で、唯一、戦争の全体像を知り得ていたのは昭和天皇ではないか、という見方はハッとさせられました。

 ミッドウェー海戦では《天皇だけが空母と多くの熟練パイロットを失ったことについて正確な報告を受けていた》(P.82)というあたり。なんだか陸軍と海軍を互いに牽制させ、そのバランスの上に立って支配しようとしていた、というなことまで想像してしまいます。引用されている軍関係者の手記に残された昭和天皇像はなかなか鋭いと感じます(とはいっても、決断が遅い感じはしますが…)。

 また、これはビックスだけが強調していることではありませんが、サイパン陥落後、いよいよ戦況が思わしくなくなった後、日本の指導層は徹底抗戦派と即時和平派に分裂するのですが、そこに割って入ったのが昭和天皇の一撃和平論だったと思います(その夢はレイテ湾における栗田艦隊の反転でついえてしまったのですが)。これだけでも昭和天皇の戦争政策への多大なものだと思いますが、まあ、とにかく個人的な目的は"中和"なので、感想にとどめておきます。

 しかし、明らかな誤字が多いのは、この本の価値を低める口実を与えているようで残念です(他山の石にしないと…)。講談社文庫に収める時には、訂正してもらいたいな、と。

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