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February 27, 2008

『戦争する脳 破局への病理』

Sensou_suru_ou

『戦争する脳 破局への病理』計見一雄、平凡社新書

 講談社選書メチエの『統合失調症あるいは精神分裂病 精神病学の虚実』で一発でファンになってしまった計見一雄先生の久々の書き下ろし。臨床医という"職人"の立場から、衒学的に語られすぎてきたような統合失調症に関して、それは脳の機能障害という普通の病気である、とアッサリと書いていたのが印象的でした。「ヒトにとっての現実とは、運動行為を脳内で準備するときに発生する世界の絵(リプリゼンテーション)である。その準備活動に従事する責任部位は大脳皮質前頭葉の四六野を中心とする部位で、準備(計画)作成のために、この部位が脳内の他部署を強力に統制して、世界の意味づけやそこで行おうとしている行動の持つ意味、社会的コンテキストその他の重要な情報をメモリから調達する。行動計画を作成する機能が統合機能であり、これが不適切だったりバラバラであったりすると、合理的行動はできなくなる」(p.271)。そうなると患者たちは簡単な行動さえも"貫徹"できず途中でやめてしまう場合が多く、それによってたまったフラストレーションを爆発させてしまうことになる、というあたりは素晴らしかったな。

 まさに目ウロコものの話でしたが、今回もぶっちゃけ気味といいますかべらんめえ口調でいろいろ教えてくれます。

 計見先生の語り口でいいと思うのはこんなところ。

 《ナチの御用精神分析学者になったユング一派》(p.168)

 まあ、普通はこんな風には書かないですよね。もう少し遠慮するといいますか。

 《できもしない自殺予防に大騒ぎするより、超限界労働を止めさせろ》(p.212)

 確かに自殺予防と一般的に語られても意味はないかもしれません。米軍では第二次世界大戦中のパットン将軍による兵士殴打事件後、戦闘不能状態を「消耗」(エグゾースチョン)と統一的に呼称させ、できるだけ前線で速やかに支援を開始することによって、原隊復帰を早めることに成功したといいます(p.187-)。《そこで何をするか?励ますこと、それから休息を取らせること、一息入れさせて温かい食事を用意すること。それからできれば熱いシャワーというのが重要だという。当時、今日のような睡眠薬はなかったから、寝かすことには当時の軍医は苦労したろうと同業者としては心配になる。今日では優れた睡眠薬によって、眠らせることを最優先に行うことができる》(p.190)という感想も実際的です。

 と、ここまで書いてきても、どういう本かというのは分かりにくいとは思いますが、思い切りザックリまとめますと、リベの理論に沿って《行為の発端となるのは欲望である》《「あれをやろう」と思う(意識する)よりも以前に、準備的な脳活動が開始され》《実行までの間の制御は「行為をしない」というネガティブ・コントロールのみ》(p.45-46)ということ。大脳皮質固有の傾向はネガティブ・コントロールなので、戦争という重大な決定を行う前にも、それを止めるために綿密な実行計画を練ることで対処しようとしますが、そのために活用されるデータの呼び出し手続きを担当するのは《大脳皮質の中でも古い成り立ちをした部位で、大脳新皮質には含まれない下位の部分(海馬辺縁系。リンビック・システムである。下位とは、より情動に近いところであり、好悪愛憎の感情でメモリ表象を色づける。簡単に言えば、都合の悪い記憶は出してくれない》(p.87)のだそうです。つまり、脳は愛憎なしの判断はできない、と。

 このことを《戦争遂行脳の役割を引き受けようとする、全てのCEOは、これを肝に銘じてもらいたい》(p.87)というのが計見先生の一番いいたかったところでしょう。

 計見先生の父親は旧海軍経理学校を次席で卒業したエリートで戦後も自衛隊に入ったということで、自身も軍と戦争について長い間考えてきた、という感じを受けます。それはまず、《戦争はあってはならない、だから軍隊はないという、戦後社会を席捲したディナイアブルの構造》を否定した上で、なぜ、指導者たちは加速的に戦争にのめり込んでいくのかという態度を不思議に思うこと。そしてこれまで考えてきたことをサクッと書いてみました、みたいな印象ですかね。

 だから専門以外の本といいますか戦争関係の本がズラリと参考文献に並んでいまして、普通のアカデミックな先生たちならまず書かないし、言わないことまで言ってしまっている感もあります。

 警察予備隊から自衛隊を発足させるにあたり、《軍人を使いたいが、また牙を剥いたら困る。牙を抜かなくてはならない。その仕事をやったのが後藤田正晴氏である》《内務官僚出の警察官僚の握る「内局」が自衛隊という実力部隊を支配する、というが戦後日本のシヴィリアン・コントロールの実態だった》《立派な業績である》(p.36-37)。こんなこと書きませんよね。でも、自衛隊が制服組と背広組で反目しあっているというのも、こんなところから考えれば当たり前なのかもしれませんし、そんなことがよく分かる説明だと思います。

 また、計見先生は医者であるということで《病人に関わることだから、あえて名前は明かさない》(p.51)と断っていますが、ノモンハン、ガダルカナル、インパールという三大最悪作戦に責任を持つ辻政信について、自身の師匠ともいうべき教授から《あれは本物のマニーだったよ》と聞いたことを明かしています。マニーはmania=躁病。現実を無視し、天気晴朗にして一片の雲もない態度は周りの人間をついついその気にさせる。こうした人間が《軍人だったら、結果は大惨禍になる》(p.54)というわけです。

 まあ、ちょっとヨタがすぎかもしれないと思うところはあるのですが、少なくとも情報満載。

 一読をお勧めします。

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