『絵解き ヨーロッパ中世の夢』
『絵解き ヨーロッパ中世の夢』ジャック ル=ゴフ、橘明美(訳)、原書房
なんか年末年始にはジャック ル=ゴフ先生の本を読み、ヨーロッパ中世に想いをはせるというのがここ数年のパターンとなってきました。普段の忙しい生活ではなかなか見えてこないヨーロッパ中世ですが、ぼくたちが生きているこの日々は〝普遍のヨーロッパ〟が水平展開してできあがったものですし、その土台には長い中世が隠されています。ならば、たまにはその深淵を覗いて、違和感だけでなく、いまもしっかりと続いている思考方法などを感じて驚くこともたまには必要なんじゃないか、みたいな。
しかも、この本はアナール学派第三世代を代表する中世史家ジャック ル=ゴフ先生の本としては、読みやすいといいますか、美しい絵画、写真などがふんだんに使われていて飽きません。
《中世の想像界は歴史と伝説、現実と想像が入り乱れた混ぜこぜの世界》(p.9)であり、《中世の想像界においては、「大衆文化」というやや漠然とした表現で呼ばれているものが重要な位置を占め》(p.10)、《中世の人々はこの地上を超自然界の栄光と魅力で飾ったのである》(p.15)ということを明らかにしようと、ル=ゴフ先生みずからがコーディネーターとして案内してくれる〝ヨーロッパ中世を感じる旅〟に参加しているようで得した気分も味わえます。
この手の本としては『中世の夢』ジャック・ルゴフ (著), 池上俊一(訳)があるけど、もっと間口を広げてわかりやすくしたビジュアル版ともいえるんですかね。
imagenaireイマジネールという言葉を、この本では想像界と訳していますが、勝手に敷衍させてもらえれば、それなくしては当時生きていた人たちの世界観も語れない想像世界ともいう感じなんでしょうかね。考えてみれば、今の日本でもまことしやかにささやかれている都市伝説も、この不安な日々を送る人々の「こうであったら面白い」という想像が生み出したものですし、そうした都市伝説なくしては、実は現代日本なども考えられないのかもしれません。
内容は「アーサー」「カテドラル」「シャルルマーニュ」「城塞」「騎士と騎士道」「エル・シド」「クロイスター」「コカーニュの国(桃源郷)」「ジョクグルール」「一角獣」「メリュジーヌ」「マーリン(メルラン)」「エルカンの一党」「女教皇ヨハンナ」「キツネのルナール」「ロビン・フッド」「ロラン」「トリスタンとイズー」「トゥルパドゥール、トゥルヴェール」「ワルキューレ」という20項目。それぞれについて、短く解説してくれているので飽きません。
さらには、映画やアニメの図版まで多数収めることで、ハリウッドなどの資本が、ヨーロッパ中世のイメージを勝手にブリコラージュしてといいますか、換骨奪胎してといいますか、時間を隔てた世界から密輸入して新しい物語やヒーローを生み出しているという構図もよく理解できます。
ぼくが勉強足りないだけなのかもしれませんが、例えば『狐物語』のルナールは、スペイン語でキツネはZORROなので、ダグラス・フェアバンクスによってマスクをかぶった正義の味方として生まれ変わったり、エル・シドは演劇の中で強く異彩を放ち、1951年にはジェラール・フィリップ主演による舞台『ル・シッド』によって再び英雄として復活するみたいな話は知りませんでした。
それにしても、p.121のジェラール・フィリップの写真のなんと素晴らしいことか!アンソニー・マンというなかなかの監督をもってしても凡庸な印象しか残らなかったチャールトン・ヘストン主演の『エル・シド』とはえらい違いです(ジェラールはLe Cidの胴衣をまとってラマチュエルに眠っているそうです)。
このほかにもシャルルマーニュはなぜかヨーロッパで学校の守護者として考えられているとか、今では中世の修道院は多くが閉鎖され、魅力的な回廊(クロイスター)は世俗的な劇場などに使われることもあったとか、知らないことはばかり。楽しめました。
あとですね…原書房の本というのはなんかつくりがチャチイ感じがするんですよね…。印刷の色なんかも、少し派手すぎる感じがする。
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