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December 23, 2007

今年の一冊は『一六世紀文化革命』山本義隆

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 今年、このBlogで取り上げさせてもらった本は昨年より少し増えて約120冊。新刊書もやや増えて50冊強。一昨年も全体で118冊だったので、これぐらいのペースが定着しているのかもしれません。

 しかし、いよいよ人文書の良書が減ってきて、書店にも並ばないという状況が深刻化したんじゃないでしょうかね。〝フランチャイズ書店〟で棚を管理している店員さんと情報交換しながら新刊本をめくってみる、というのはつい3~4年前まではたしかにあった風景なのに、もう、いまは懐かしいだけの贅沢な時間になってしまったのかもしれません。かわりに頼りになるのがインターネットの書評、ということになるんでしょうかね。

 ということで、勝手に恒例行事とさせてもらっている「今年の何冊」におつきあいいただければと思います。

[今年の4冊]

『外国人投資家』菊地正俊、洋泉社
 くだらないシリーズの多い新興新書の中で、唯一といっていいほど良心的なラインアップを揃えているのは洋泉社でしょう。この本も、日本経済の中で欠かすことのできない主要プレーヤーとなった外国人投資家について、多くの情報を読みやすく紹介しています。「付章 大手外国人投資家の紹介 規模が大きい大手外国資産運用会社」のデータも参考になりました。

『一六世紀文化革命 1, 2』山本義隆、みすず書房
 ルネサンスを生みだし、近代へ向けてドライブさせ、人類の歴史を「普遍としてのヨーロッパ」に向かわせたのは、文系の人文主義者や宗教改革者たち、あるいは科学の理論家ではなく、実は応用技術者だったのではないか、という主張を論証した本。職人や外科医たちの観察や実験による認識が世界をしっかりと見つめ直し、近代に向かわせたのだ、ということが感動的に描かれています。それは「知は力なり」(Ipsa scientia potestas est)の時代なのですが。

『波乱の時代 The Age of Turbulance 上、下』アラン・グリーンスパン、日本経済新聞出版社
 英語版では前半にあたる日本語版の上巻は出色の出来。最高の近現代経済史です。《アメリカ経済の最大の強みはその回復力にあるとわたしは考えるようになってきた》(p.15)といいますが、サブプライムローンの問題から抜け出せるのはいつになるのでしょうか。

『革命ロシアの共和国とネイション』池田嘉郎、山川出版社
 視点がいいですよね。レーニン、カーメネフ、トロツキーらが混乱の極みの中で、どうソ連をつくりあげようとしていったのか。また、現実を前にその路線が歪められていったのか、ということが、モスクワの3年半の記録から浮かび上がってきます。

 そして、この中から1冊を選べ、ということでしたら、やはり『一六世紀文化革命 1, 2』になると思います。いつもながら、なにもさしあげられませんが、パチパチと拍手を。

[面白かった本]

 以下は冬休みの読書計画などにお役立てください。

『日本の統治構造 官僚内閣制から議院内閣制へ』飯尾潤、中公新書
 日本の首相権限が弱いのは議院内閣制だからで、米国の大統領みたいな性格を持たせなければならない、なんていう議論は間違いで、《議会と大統領が別の選挙で選ばれ、権力が厳然と分立する大統領制における大統領より、議会と行政府の双方をコントロールできる内閣の長である首相のほうが、本来、大きな権力を持つのである》という「はじめに」からぐんぐん引き込まれました。《日本政府は「省庁連邦国家日本」(United Ministries of Japan)として把握することもできる》(p.49) というのも冴えたいい回し。

『スティグリッツ教授の経済教室』ダイヤモンド社
 いつの間にかアンチ・グローバリズムの騎手になっていたんですね、スティグリッツ教授は。《アメリカの知的財産制度はイノベーションを阻んでいる可能性がある》(p.15)なんていう議論は初めて聞きました。

『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』上杉隆、新潮社
 安倍晋三は間違いなく戦前戦後を通じての総理大臣ワースト3に入るでしょうが、退陣前に出したところがこの本の偉いところ。安倍晋太郎外務大臣の秘書官だった当時、マンガとテレビゲームにふけっていたなんていうあたりはゾッとします。首相候補にこんな総裁しか選べない自民党の末期的症状もうかがわれます。

 岩波の『シリーズ日本近現代史』は10分冊のうち6まで来ましたから、最後の巻が出た時に総括したいと思いますが、面白さということであれば『アジア・太平洋戦争 シリーズ日本近現代史6』『満州事変から日中戦争へ シリーズ日本近現代史5』『日清・日露戦争 シリーズ日本近現代史3』はお勧め。といいますか、全部、戦争を描いていますね。

『こんなとき私はどうしてきたか』中井久夫、医学書院
 中井先生の本は、毎年、一服の清涼剤みたいな感じになります。《暴力というのは、低レベルで一時的ですが、統一感を取り戻す方法となります》(p.76)というのも新鮮な言葉。《幸せは意地からは来ない》《スパイスだけでは料理はできない》など巻末に収められてい精神保健いろは歌留多も面白い。

『高校生のための哲学入門』長谷川宏、ちくま新書
 現代の高校生向けの『君たちはどう生きるか?』。《悲しさと寂しさをくぐりぬけることによってしか死者と精神的につながることができないのを不条理だというなら、自然と精神にまたがって生きる人間は、不条理を運命づけられた存在だというほかはない。そして、不条理の運命を根源的な力とすることによって、人間はゆたかな共同の精神世界を作りあげてきたというほかはない》(p.145)という文章は、今年読んだ中で最も感動した一節です。

『世界史の教室から』小田中直樹、山川出版社
 高校世界史の未履修問題が明らかになるなど、世界史の授業の空洞化という現象を前に小田中先生が、高校で世界史を教えている教員51人に多くの質問を投げかけながらインタビューもこなした労作。《多くのヒストリアンにとって、歴史を学ぶといういとなみは「語る」という行為を含むし、せっかく「語る」のであれば聞き手に声を届かせるべきだからである。それゆえ、ぼくらは彼(女)たちの日常的な実践から多くを学ばなければならないーぼくはそう思う。皆さんはどうだろうか》(p.161)というあたりはいつもながら素晴らしい問いかけ。

『反転』田中森一、幻冬舎
 食事も忘れて読んだ本。情報量がものすごい。個人的にはバブル時代を懐かしく思い出すとともに、当時はなんて日本の経済社会はナイーブだったんだ…と思います。

『漢詩百首 日本語を豊かに』高橋睦郎、中公新書
 中国人60人、日本人40人の漢詩を100首集めて、一番、調子のイイところを紹介した、東洋の歴史2500年で生まれたベストヒットのメドレーといいますか私家版『和漢朗詠集』みたいな本。枕元に置いて時々、読み返してください。

『表舞台 裏舞台 福本邦雄回顧録』
 福本イズムの福本和夫の長男が、画商というマネーロンダリングの役割を果たしながら、戦後日本の保守政治を裏からウォッチし続けたというのは、日本の保守政治の奥深さなのか、それとも節操のなさなんでしょうか。農地解放や山林解放に奔走した島根時代の竹下元首相に関して《やや、社会主義的なところがあるんだ》(p.191)というのは納得的な言及。

『新左翼の遺産 ニューレフトからポストモダンへ』大嶽秀夫、東京大学出版会
《新左翼は、「反権威主義的参加」を実践的主張としてもっていた。大学運営に関する学生の参加から、企業における労働者の経営参加まで、単なる狭義の政治参加にとどまらない「社会のあらゆる場における民主化」要求としてである。この点で「参加」を掲げるニューレフトと「退出」・「選択の自由」を掲げるネオ・リベラルとは対照的な位置にある》(p.9-10をアレンジ)という視点を得ることができました。

『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』
 小泉内閣の後、ほぼ1年半にわたって政界の混乱が続いています。それは橋本政権が唯一残した成果である官邸主導の道具を使いこなせた竹中平蔵元大臣のような存在がいなかったから、ということに帰せられるかもしれません。『小泉官邸秘録』飯島勲でも描かれていた自衛隊の問題点は、今になって吹き出していますが、それを指摘したのは、この本の価値を高めています。

『ローマ人の物語 15 ローマ世界の終焉』塩野七生、新潮社
 高校の世界史レベルでは、西ローマ帝国の滅亡は教えてくれますが、それがこんなに情けない滅び方だったとは…。15年にも及ぶ『ローマ人の物語』の中でも、上々の部類に入る巻でした。《誰もが新鮮な水を充分に使えること自体が立派に文明だが、水を流すことだけを考えて水道を建設していればよかったこと自体も、「パクス・ロマーナ」(ローマによる平和)の証しなのであった。それが、兵士の進入路として注目されるようになっては、ローマ文明の居場所はなくなる(中略)。最も重要な文明がゴート戦役を境に消滅するのである(中略)。一般の人々への常時の配水もまた立派に政治であると考えていた、ローマ文明は死んだのであった》(pp.361-362)という事実上の結びが素晴らしい。

今年読んだ新刊書
『革命ロシアの共和国とネイション』
『哲学塾 なぜ意識は存在しないのか』
『日本人が知らない松坂メジャー革命』
『日本の統治構造 官僚内閣制から議院内閣制へ』
『MICHELIN GUIDE東京 2008』
『波乱の時代 The Age of Turbulance(下)』
『波乱の時代 The Age of Turbulance(上)』
『スティグリッツ教授の経済教室』
『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』
『田舎暮らしができる人 できない人』
『もし部下がうつになったら』
『なぎら健壱の東京居酒屋 夕べもここにいた!』
『アジア・太平洋戦争 シリーズ日本近現代史6』
『満州事変から日中戦争へ シリーズ日本近現代史5』
『大正デモクラシー シリーズ日本近現代史4』
『日清・日露戦争 シリーズ日本近現代史3』
『民権と憲法 シリーズ日本近現代史2』
『国のない男』
『最も愛される監督・原博実 ヒロミイズム』
『こんなとき私はどうしてきたか』
『高校生のための哲学入門』
『世界史の教室から』
『マングローブ』
『反転』
『漢詩百首 日本語を豊かに』
『じょっぱり魂 “団塊の名将”齋藤重信と盛岡商業サッカー部全国制覇への軌跡』
『戦争解禁 アメリカは何故、いらない戦争をしてしまったのか』
『塩野七生「ローマ人の物語」スペシャル・ガイドブック』
『一六世紀文化革命 2』
『一六世紀文化革命 1』
『哲学の歴史 4 15-16世紀 (4)』
『オシムジャパンよ! 日本サッカーへの提言』
『実録小泉外交』
『ミクロコスモス II 』
『ミクロコスモス I 』
『大正デモクラシー』
『表舞台 裏舞台 福本邦雄回顧録』
『イラク自衛隊「戦闘記」』
『日本の戦争力vs.北朝鮮、中国』
『新左翼の遺産 ニューレフトからポストモダンへ』
『日本サッカー史 日本代表の90年 1917-2006』
『日本サッカー史 日本代表の90年 1917-2006 資料編』
『ロング・グッドバイ』
『ブッシュのホワイトハウス(下) 』
『ブッシュのホワイトハウス(上) 』
『グレート・ギャツビー』
『カトリシスムとは何か キリスト教の歴史をとおして』
『オフレコ!別冊 最高権力の研究 小泉官邸の真実 飯島勲前秘書官が語る!』
『逃亡日記』
『われわれはどこへ行くのか?』
『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』
『民俗学と歴史学 網野善彦、アラン・コルバンとの対話』
『外国人投資家』
『人はなぜ太るのか 肥満を科学する』
『ローマ人の物語 15 ローマ世界の終焉』

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