『日本人が知らない松坂メジャー革命』
『日本人が知らない松坂メジャー革命』アンドリュー・ゴードン、朝日新書
本屋さんで見かけた時は「松阪投手の便乗本か」と手にも取らなかったのですが、よく見させていただいている方の日記から、著者が『日本の200年』『歴史としての戦後日本』を書いた日本史研究者であることを知り読んでみました。
イタリア移民の息子だったディマジオ、黒人差別という宿命的課題に挑戦したロビンソンは、それぞれの共同体でヒーローとなり、70年代になると中南米やカリブ海沿岸諸国から選手がやってきて、いまはアジアから渡米する選手たちが《太平洋の両岸の野球ファンの希望を、もちろん多少の不安をともないながらではいるが、かきたてている》(p.13)といいます。高校生時代から日本球界の至宝だった松坂のメジャー行きは、そうしたプロセスがもはや覆しようもないという事実を日本の野球ファンに知らしめたのかもしれません。
しかし、実は松阪に1億ドルの値段をつけたレッドソックスは、大リーグで最後に黒人選手を入団させた球団という《強い人種差別球団だった歴史》を持っていたというんです(p.58)。
日本のプロ野球は大リーグから猛練習とドジャース戦法を学び、やがて自家薬籠中のものとしていったのは、日本のメーカーがアメリカの品質管理システムを取り入れていったプロセスに似ているという指摘は、なるほどな、と(p.104-)。1950年代の日本のプロ野球キャンプでは1000本ノックなどは皆無だったんですが、大リーグのキャンプに参加した川上選手などが、アメリカのやり方に触発され、やおら走り込みをするようになったそうです。ちなみに、「投げ込み」「走り込み」をひと言で表現できる単語は英語にない、とのことです。
こうした交流は今後もますます拡大するでしょうし、具体的な動きとして、日本側はメディカル教育の知識を吸収し、大リーグは日本の捕手の技術を持ち込みたいそうです(p.161)。
シーズンが終わったらすぐに刊行しようということで、まるでDVDレコーダーの追っかけ再生みたいなやり方で、その都度の試合について書かれた本書ですが、まあまあ、最後まで読ませてもらいました。
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