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November 05, 2007

『スティグリッツ教授の経済教室』

Stiglitz

『スティグリッツ教授の経済教室』ダイヤモンド社、藤井清美(訳)

 ほぼ1ヵ月ぶりぐらいでしょうかね、新刊書を買ったのは。もう、あまりにも面白い本が出てこないのでヘーゲル先生の本の読み直しとか続けているのですが、小田中先生のネタ帳を読んで久々に食指が動く本に出会うことができました。『スティグリッツ教授の経済教室』です。

 はたして未だに権威があるのかどうか疑わしいのですが、とにかくノーベル経済学賞の受賞者で元世界銀行のチーフエコノミストであったスティグリッツ教授が、プロジェクト・シンジケートに寄稿していた原稿をまとめたもので、日本では『週刊ダイヤモンド』に連載されています。プロジェクト・シンジケートという団体は中東欧や中央アジア諸国の人々への経済理解を高めることを目的とした組織だそうで、いまや一部では反グローバリズムの啓蒙家とみなされるスティグリッツ教授らしい選択なんでしょうかね。

 全部で54本の短い論文といいますか経済エッセイが収められていますが、忙しいビジネスマンの方は書き下ろしの第1章「21世紀初めの日本と世界」だけを読んでも、日頃ウォッチしている経済の動きの背景が整理されるんじゃないでしょうか。

 2007年は東アジア経済危機に見舞われ、そこから脱出して10年目という節目の年ですが、スティグリッツ教授は『東アジアで達成されたことは、あらゆる人の予想を超えていた』『アジアの大方の国は、所得が増大しても(ジニ係数などの)格差の標準的指標は上昇せず』『(格差の拡大した中国でも)何億人もの人が貧困から抜け出すことができた』(pp.2-4)と手放しの賛辞を送っています。逆にIMFの優等生といわれたアルゼンチンは経済危機に見舞われ、逆にアジアの成長によって、ラテンアメリカ諸国は恩恵を受けるまでになった、と。

 スティグリッツ教授はIMFが97年に資本市場の自由化要求を行ったとき「仰天した」としています。《自由化が経済成長を促進するという根拠がまったく見当たらない》(p.9)からです。しかも《往々にしてボラティリティの増大を伴う》(p.10)、と。逆に中国は《市場原理主義者のルールのすべてには従わないことによって》(p.11)市場経済を達成した、と評価しています。

 《アメリカの知的財産制度はイノベーションを阻んでいる可能性がある》(p.15)というのは理想的すぎるんじゃないかと思いますが、それにしてもここまで激しいグローバリズムに対する反論はあまり聞いていないので耳新しかったです。《自動車の代わりに国債を輸出したのでは雇用を生み出すことはできない》(p.20)というのもアメリカに対する痛烈な批判です。

 個人的に印象に残ったのは、橋本内閣が行った消費税の再引き上げとその後の景気後退は《日本は世界にいくつかの教訓を与えた》(p.22)というあたり。もう、世界史的な教訓になっちゃっているんですかね。いまや《低レベルのインフレは成長に大きな影響は与えないし、ディスインフレーションーインフレ率が高くなりすぎたときにそれを低下されることーのコストは小さい》(p.24)というのが通説なんでしょうから。

 中央銀行制度は宗教のようなもので、各国はそれぞれの信条を確信を持ってとなえるが、それを裏付ける根拠はほとんどない、というのも笑えます(p.25)。そして《上げ潮は必ずしもすべての船を持ち上げてきたわけではない》(p.29)という言葉は、反グローバリゼーションの信条(クレド)になるかもしれません。

 世界銀行の総裁はアメリカによって、IMF専務理事はヨーロッパによって選ばれるという仕組みや、米大統領が議会の審査も通さずに世銀総裁を指名できることに対する憤り(p.37)に関しては、何本も書いていますが、あまりそこまでは問題意識は共有できませんでした…(ウォルフォウィッツのスキャンダルは面白かったですが)。

 素晴らしい表紙のイラスト、1785円という、この手の本にしては安い価格設定などダイヤモンド社に拍手。

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