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November 22, 2007

『波乱の時代(下)』グリーンスパン

Turbulance2

『波乱の時代 The Age of Turbulance(下)』アラン・グリーンスパン、山岡 洋一/高遠 裕子(訳)、日本経済新聞出版社

 上巻は面白い近現代経済史の講義を受けているような感じで感激しましたが、下巻はちょっと"ご託宣"みたいなのが多いかな、という印象。特に12章「経済成長の基礎」や13章「資本主義の形態」はアメリカ流の資本主義が最強であることを、なんといいましょうか、開発途上国の指導者たちに説く啓蒙書みたいな感じでちょっと退屈。

 続く14章から17章も中国、東アジア諸国とインド、ロシア、中南米諸国の経済の現状をどうみているか、という"講演会"風の緩いお話が続きます。しかし、やはり日本に関してどんなことを言っているのかは気にかかるところ。

 印象的なのは2000年に当時の宮沢蔵相と語った内容。グリーンスパンは不良債権処理に関してアメリカがS&Lを解体したような処方箋を提案したのに対し、《宮沢蔵相は、穏やかな笑みを浮かべながら、こういった。「アラン、日本の銀行の問題について、じつに鋭い分析をしてくれた。対策についてだが、それは日本のやり方ではない」》(p.56)という答えが返ってきて、日本の行動は他の資本主義諸国とは違い「体面を失う」ことがいかに屈辱的かを知って得心がいった、と書いています。それと同時に日本の年金給付水準は将来維持できないことに関してどう対処するのか?と日本の高官に尋ねたところ《給付水準を下げるし、それは問題にならない、日本人は制度の変更を国益の中で考える、それで十分なのだ、という答えが返ってきた。アメリカの議会や有権者が、ここまで合理的に振る舞うとは想像できない》(p.57)としています。

 中国に関しては06年に劉国光という毛沢東主義の残党が全人代で暴れたことを指摘したり、全体的には不透明ながらも進展はしていくだろうけれども、融資の返済能力を審査する能力が銀行に欠けていることなど不安な要素を並べたてている印象。

 中国、インドに関してはやや観念論的な話も多いのですが、さすが裏庭、中南米に関してはクリアです。中南米の経済を停滞させているものはポピュリズムだというんです。《経済的な特権階級が抑圧者とみなされている社会で、社会の行き詰まりに対して、貧困化した大衆が起す反応》が経済的ポピュリズムだ、と。随分、言いたいことをいうな、と思ったのですが、例えば南米でなぜグティエレス神父のような「解放の神学」みたいな考え方が出てきたのかな、と個人的に不思議に感じていた背景をパッーと明るく照らしてくれたような感じを受けました。「解放の神学」とか、チャベス大統領とかはポピュリズムなんだな、と。

 とにかく、グリーンスパンは南米に関しては容赦しません。《皮肉でも何でもなく、教育程度の高くない多数の人びとや政治家が、資本主義社会のルールを進んで遵守しようすることの方が不思議だとつねづね思っていた》(p.117)とまで書く始末。ポピュリストたちは概念的な枠組みを示せば、差し迫ったあきらかな問題から目をそらせると考え、金利が高くなったら紙幣を刷り、国内に雇用不安が起これば輸入を禁止するなどの単式簿記的な発想でしかものごとに対処できず、そうした政策は早晩、うまくいかなくなるので、指導者はカリスマ性だけで生き延びようとする、とか。

 世界経済に関してはWTOのドーハラウンドがうまく決着せずグローバル化にブレーキがかかりそうだということと、一次産業から二次産業への中国の労働移動がピークを迎える時に日本にデフレをもたらしたような低金利時代は終わりを迎えるかもしれない、と語っています(p.177)。

 アメリカ経済の懸念事項としか書かれているひとつがCEOなどへの高額な報酬。しかし、グローバル化によって利益が途方もなく拡大している中で、スターを迎えるためには必要だというのが結論です(p.229)。また、アメリカ社会の問題点として、インフラを維持・運営する人材が初等・中等教育の機能不全によって自前で養成できないことだと書いています(p.182)。《中程度のスキルの人材を選抜するのに、まともな文章が書けないとか、足し算引き算ができないといった理由で落とさねばならない現状》(p.196)に対して怒りをぶつけていますが、個人的に新鮮だったのが、グリーンスパンのような人にとって、初等・中等教育を受けただけで社会に出る人びとは「インフラの維持・管理要員」なんだ、という考えているのかな、というあたり。率直に言ってそこまで書くかね、という感じ。

 《知識が失われることはないのだから、生産性はつねに上昇する》(p.284)なんて言い回しは好きなんですがね。

 後でまた書くかもしれませんが、とりあえず、こんなところで。

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