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October 09, 2007

芸術祭十月大歌舞伎『恋飛脚大和往来』

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 幹部俳優たちがいかに早く人間国宝になるかにしのぎを削っている歌舞伎界にあって、文化庁主催の芸術祭は重要なイベント。ということで10月は芸術祭十月大歌舞伎となります。

 午前か午後のどちらかを見るか悩みましたが、とりあえず、ひいきの孝太郎さんが出ている『赤い陣羽織』のある午前の部に。

 予約はしたのはいいのですが、よく調べてみると「赤い陣羽織」は木下順二作の元はといえば民話劇。歌舞伎でやるのは1961年以来のこと。

 孝太郎さんはリラックスして百姓の女房役を演じている。しかし、花道の七三のところの芝居で、客席が一番沸いたのは馬の孫太郎の演技。中に入っている人は名馬でしたね。とはいっても、さすがに肝心のところの芝居では切なさを出す孝太郎さんはよかったです。庶民の切なさがにじみ出るんですよね。ぼくは声をかけるなんていうことはできませんが、それでも、今回は手を叩くところもなんかはかりがたかったという感じで終わりました。

 次の『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』は上方和事。近松門左衛門作の世話浄瑠璃『冥途の飛脚』の改作が歌舞伎に移されたもの。今回は「封印切」と「新口村」を通してやってくれました。

 馴染みの遊女梅川を身請けしようと手付けを払いながら、その後の金が工面できない貧乏商人、忠兵衛が主人公。同じように梅川に惚れ、身請けの二百五十両もの大金を持ってやってきたのが忠兵衛の遊び友達である八右衛門。八右衛門は忠兵衛とは違い羽振りがよく、忠兵衛にも金を貸してやるような間柄。

 ところが遊女梅川は八右衛門が好かない。振られた八右衛門は「ありゃ大和の国の呑百姓の倅やで、あほらし」と忠兵衛の悪口をさんざんぱら並べたて、あまりのことに二階で大人しくしていた忠兵衛も階段を駆け下りてやりあう事に。

 二人のやりとりは舞台ならではというか、小説なんかでは説明がついていきません。貧乏な忠兵衛に本当に金をもっているのかと聞き、自分の小判を火鉢にコンコンとあて「ええ音や」と意地悪く攻め立てる八右衛門。忠兵衛は金こそ持ってはいるものの、それは堂島の御屋敷に届ける三百両の為替金。もちろん、そんな公金を使って身請けしたりすれば死罪。しかし、さらに八右衛門に攻めたてられ、勢いで封印を切ってしまう忠兵衛。「もしこの金が味な金であったなら、その首は胴についてはおらぬぞよ」と八右衛門に云われるまでもなく、ここまで来たら毒を喰らわば皿までと預かっていた三百両の為替金の封をすべて切り、梅川を身請けしてしまいます。

 そうなると後はもちろん素早く心中の旅w

 当時、為替、株などの言葉は自前の日本語としてすでに存在しており、民衆の間では近代的な金融経済の土台がしっかりと存在していたという網野善彦さんあたりの論議を思い出してしまいました。そういった面ではもうほとんど、背景となる経済社会は近現代劇とあまり変わらないかも。近松といい、安永二年(1773年)にその原作を改作して歌舞伎にした菅専助と若竹東工郎といい、なんとモダンな感覚を持っていたか。なにせ、テーマが銭ですもん。その物神性を、思わず封印を破ることによって浮かび上がらせます。素晴らしい。

 しかも、悪事が破綻してしまうと後はしらばっくれるか、それもバレると心中してしまうというという感覚は今の日本人もそのまま持っています。歌舞伎の世話物、上方和事はいろいろ考えさせてくれます。

 「封印切」では藤十郎さんの忠兵衛が、失礼ながらあのお年なのにちゃんと若旦那という感じがするから素晴らしい。秀太郎さんは六月に続き、世の中の裏も表も見極めましたという感じの役。声がちょっと出ていなかったように感じましたが、なにもかもわきまえていますという風情を裾さばきで出す動きが素晴らしい。「新口村」では竹三郎さんの忠三女房が舞台引き締めていました。

 「新口村」はちょっと退屈してしまったんですが、それでも、雪景色の書き割りに、さらに雪が降る中、道行する梅川と忠兵衛の姿は美しく舞台の中で映えていました。これは伝統の型の力ですよね。見事でした。

 この後は玉三郎さまとラブリンこと愛之助さんによる舞踊歌舞伎「羽衣」。いいですね、最後はあまり考えることなく、ただただ美しいものを見て午前の部を終わるという呼吸は。

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