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October 13, 2007

『世界』小沢論文について

Sekai_0711

 小沢一郎さんに関しては、コワモテの印象が先に立っていたので、93年6月に出た『日本改造計画』を読んで、あまりにもその印象と違ったので驚いたことを思い出します。

 もちろん、一番驚いたのは憲法9条に関する部分。小沢さんは、憲法の理念を考えれば、国際社会で名誉ある地位を占めたいという平和原則もあるので、現行憲法に第三項として「第三項 ただし、前二項の規定は、平和創出のために活動する自衛隊を保有すること、また、要請を受けて国連の指揮下で活動するための国際連合待機軍を保有すること、さらに国連の指揮下においてこの国際連合待機軍が活動することを妨げない」を付け加えればいいと明確に書いていました。個人的に、この案は、これまで出てきた憲法改正論議の中では、最も優れたものだと思っています。

 次の総選挙で民主党が第一党となった場合、民主党を中心とした政権の誕生が予想されますが、今回の『世界』小沢論文は、テロ特措法には反対しているけれども、ISAFへの参加を実現したいと語っている中身を憲法論議から説き起こし、詳しく説明しています。要約すれば、以下のようになるでしょうか。

1)米国はもはや、一国で世界の平和維持、すなわち国際社会の警察官の役割を果たすことが不可能になっている

2)米国に対して、国際社会の調和を乱しているぞ、と忠告するのは、同盟国である日本の大切な役割ではないか

3)そのためにも日本自身が世界の平和を守るために率先してあらゆる努力をし、平和維持の責任をシェアする覚悟が必要

4)集団的自衛権は憲法によって禁止されているが、国連の活動に積極的に参加することは、武力行使を含むものでも憲法には抵触しない。むしろ憲法の理念に合致する

5)その場合、武器の使用などは世界の常識に従うだけのことであり、政権を担ったらアフガンのISAFへの参加を実現したい

6)紛争やテロの根底にあるのは貧困だということも忘れてはならない

 今回の論文は雑誌6頁分ということもあり、驚くような内容はありませんでしたが、小泉・安倍政権の対米追随路線とはハッキリ違うという方針を打ち出せているとは思います。また、福田康夫政権を意識してか、父親である福田赳夫政権の時に日本赤軍に屈して死刑囚の釈放と身代金の支払いに応じたことについて「世界中で、そのように屈服した国は他にありません」とまで書いているのは、さすがタフな印象ですね。

 しかし、こうした内容よりも『世界』に書いたということに驚く人が今回は多かったのではないでしょうか。なにせ雑誌『世界』は、いまや購読者よりも執筆者の方が多いのではないかと言われるほどの落ち込みようですが*1、仮にも岩波のオピニオン誌。憲法擁護の旧左派の砦みたいな雑誌ですから。

 民主党は次の総選挙で勝利しても、参議院では社民党や日共に協力してもらわなければ両院で過半数を維持することができないわけですし、だいたい、衆議院選挙で日共が全選挙区に候補を立てず、民主党に票が入るようにしてもらっているわけですから、小沢さんも旧左派に引っ張られている感じですかね。

 驚いたのは横田喜三郎を思い切り持ち上げていること。自身の憲法解釈について述べた後「ちなみに、そのことについて、明確に述べている憲法学者がいます。横田喜三郎さんという東大教授で、のちに最高裁判所長官を務めた方です。横田さんの著書をお読みいただけば、より明確に理解していただけると思います」とまで書いているんです。

 勉強が足りませんので詳しくは存じ上げてはいませんが、横田喜三郎さんといえば人々が親しみを持てるように日本国憲法を平仮名口語で表記するよう提案し、憲法第9条による平和主義を積極的に論じただけでなく、〝平和に対する罪〟を認めて東京裁判を肯定した、という感じの方だと思います。ちなみに猪口邦子さんはこの人の孫でもありますね(この猪口という人は小泉政権で男女参画大臣をつとめるなど自民党にすり寄っていきましたが、ぼくなんかは最初に知った時は旧左派として認識していた人物です)。

 また、タリバーンにシンパシーを寄せる中村哲さんのことも「お話を伺う機会がありました」とテロの根底には貧困問題があるする場面で触れています。

 ともかくも民主党は「政権政策の基本方針」


8.国連平和活動への積極参加
国連は二度に亘る大戦の反省に基づき創設された人類の大いなる財産であり、これを中心に世界の平和を築いていかなければならない。

国連の平和活動は、国際社会における積極的な役割を求める憲法の理念に合致し、また主権国家の自衛権行使とは性格を異にしていることから、国連憲章第41条及び42条に拠るものも含めて、国連の要請に基づいて、わが国の主体的判断と民主的統制の下に、積極的に参加する。


 と決めているそうで、来年以降、そうした方向で動くことに、岩波に代表されるような旧左派も容認してほしい、という願いを込めているのでしょうか。

 『日本改造計画』の憲法解釈について、吉本隆明さんは、社共も容認できるのではないか、と当時から書いていましたが《はっきりいえば資本主義と社会主義の対立の時代は終わったのだ。超資本主義とその弱点を乗り越える理念を構築し、潜在的な対立の構想をつくりあげるべき時代に移ってしまっている》《自民党が日本資本主義の与党として存在してきたとおなじように、社共が日本の国家社会主義の与党として存在してきたとすれば、このふたつが解体再編されて、超資本主義の与党をとまだ形のわからない超社会主義の与党がつくりだされることが、政治過程の課題となることは必至だとおもえる》(『超資本主義』徳間書店、1995、p.101-102)ということが、いよいよ実現される過程になってきたのかな、という感じもします。

*1

 この『世界』を買おうと思って六本木のABC、あおい書店、神田の三省堂、恵比寿アトレの有隣堂をまわったのですが「雑誌『世界』の最新号ありますか?」と聞いても、書店員は一発では分かってくれませんでしたね。「岩波の出している売れない月刊誌あるでしょ」と付け加えても半分ぐらいしかわかってないみたいな感じで。 だいたい岩波って自転車操業で、雑誌まで売り切りにしているから、今回も部数が伸びていないんですよね。だから、みんな素早く売り切れ。ようやく見つけたのは東京堂書店。さすがに、ここのベテラン店員さんは「あ、小沢さんの論文の載ったヤツですね」といって、持ってきてくれましたが、岩波の営業はバカですよね、通常の10倍刷っても捌けたと思うのに。

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Comments

初めまして。僕は、勉強が足りないどころか、全く勉強していないノンポリです。初めてブログのような形式のサイトにコメントさせて頂きます。

冷静な分析(?)をなさってますね。平明な文章表現も含めて大変感心致しました。それほど衒学的でもない面にも好感が抱けます。

書かれた方の文章を拝見しますと、訴えようとしている内容が何であれ、その方に内在する発想が帰納法的なのか演繹法的なのか分かりますよね。吉本隆明さんが「日本改造計画」に関するコメントを出されているとは知りませんでした。尤も、その有名な方がどのような影響力を旧左派に今でもお持ちなのか知りません。だた、法文のような文章には貴方のような方の解釈文付きが必要ですね。何かで読んだことがありますが、「資本論」は隠れたベストセラーと言われたそうですね。でも、面白いことに「資本論」自体は殆ど読まれておらず、その何種類もの解説書の方が全体としてはもっと売れたそうです。

僕のような一般庶民でも自分の言葉で参加できるマスコミュニケーションの時代がインターネットによって到来しているわけですから、啓蒙の分野でも旧貴族社会を出で、せめて文章革命を志向して頂きたいと思っております。

さて、小沢さんの件ですが、犯罪を犯したわけでもないのに、これ程マスコミの徹底したバッシングを受け続ける政治家も大変珍しいのではないでしょうか。小沢さんが明確に主張するにしては、口頭での説明が時々短絡的過ぎますので、マスコミとしては攻撃しやすいのかもしれませんが…それにしてもです。マスメディアや評論家達の多くは、彼等の品性・品格などお構いなしに小沢さんを罵倒します。
これでは、日本人(?)の特徴の一つと言われた判官贔屓を目覚めさせてしまいそうですね。

自民党時代から小沢さんの理念は変わっていないと思います。マスコミに国連至上主義を非難され、国連は戦勝国が設立したもので、日本は敵国扱いになっているんだぞ、と罵倒されてきた政治家です。今では敵国条項は死文化されているようですが。

他の国々の人々と多少なりともお付き合いのある方々は分かっているのではと思いますが、日本の高度経済成長は米国のおかげであって、日本人の能力が特別優れているせいではないと思っている人々が結構おります。政治の世界は別としても、経済の世界ではと信じている日本人にとっては反論したくもなるでしょうね。

しかし、経済だけではなく、政治の世界でも日本はグローバル化する必要があると考えます。まあ、小沢さんも以前から主張していることです。出来るだけ早急にグローバル化のプログラムを作成するという必要性を前提に考えを単純化しますと、現実的には以下の二つの選択可能な方向性しかないようです。
1)改憲は前提とせず、国連の下で国際平和へ向けた他国と同様の積極的貢献を行い、常任理事国になる。そして、国連改革にイニシアティブを発揮する。
2)憲法を改正し、名実ともに軍隊保有国となり、米国の軍事的方向性(戦略)に調和しながら国際活動を行い、国際的地位の向上を追求する。

僕が注目しましたことは、自由党が民主党と合併した後間もなく、小沢さんが旧社会党の横路さんと合意した内容です。その時、小沢さんは本気で比較的短期間に政権を取る決意をし、横路さんもそれを認めたということだと思いました。お互いに大きな譲歩をしたわけです。
当時のマスコミは合意内容を取り上げましたが、だからどうなんだ?という雰囲気でしたね。勿論、僕も興味本位で見ていただけですから、人のことは言えませんが…

つまり、僕は問題の「世界」は未だ読んでませんが、解説・解釈して下さっておられる方々の内容を拝見しますと、小沢さんは特別な変化を伴った発言をしたわけではないようですね。彼が民自合併後に明確にした立場を「世界」という団塊の世代にノスタルジーを抱かせそうな雑誌で解説しただけのようです。まあ、言われておりますように、横路さんとの合意を思うに、「世界」掲載は意図された背景があると思う方がおられても不思議じゃありません。

この『世界』を買おうと思って…という最後の下りが良いですね。この方は現実の世界に生きておられると感じ、何故か、ほっとします。
問題の雑誌は売れ切れ、売れ切れの様子ですから、間もなく古本屋に出るだろう、その時に買おうと思ってました。どうも甘かったのかもしれませんね。昨日夜、2,000円でAMAZONに出品されてましてビックリしました。

それでは、お元気で、

Posted by: simple | October 15, 2007 at 02:20 PM

 はじめまして!丁寧なコメントありがとうございました。また、お褒めにあずかり恐縮です。

 ぼくもパーティの席などで小沢さんを何回か近くで見たことがありまして、何度か声をかけようかと思ったのですが、その都度、あまりにも不機嫌そうな仏頂面に、コミュニケートする気力が起きませんでした。一般に、政治家は与野党含めて愛想の良い方が多いので、公の席でも小沢さんみたいな雰囲気を漂わせる方は珍しいと思っています。

 小沢さんは自民党がまだ巨大与党である時に二大政党制を構想し、経世会の瓦解をキッカケにいきなりの奇襲攻撃で細川政権を誕生させました。もっとも、細川政権は1年しか続きませんでしたが、雌伏10数年、ようやく念願の自民党と民主党による二大政党による政治が始まろうとしています。予想通りに進めば、その粘り、最初の構想からのブレのなさ、戦術の多様さはすさまじいものだと感じます。

 吉本さんも小沢さんをすごく買っていたのですが、細川政権の崩壊時に、こんなことも書いていました。

《わたしは小沢一郎に欠陥があるとすれば、特定の党派や阿呆としかいいようのないスターリン主義の残党などの評価はどうでもいいのだが、一般の国民大衆からみたらじぶんの政治的な挙動がどう視えるかという複眼のイメージをたえず繰り込んで判断できなかったことにあるとおもう。
 わたしは小沢一郎を政治家には稀な率直な言動の持主で、わたしたち一般の国民大衆のところまで人間を感じさせることができる近来にない政治家だとおもってきた。しかし数年まえ何の失政もない東京都知事を下ろそうとした動きからはじまり、社会党を除外して統一会派「改新」をつくろうとしたり、海部俊樹を唐突に首相候補にもってきたりした言動を終始みていると、早急さのあまり一般の国民大衆の願望がどこにあるのかを見失ってしまっているとかんがえざるをえなかった。政治党派や文化知識人からファシズム呼ばわりされても、本質的にはどうということはない。だが一般の国民大衆から理解できるイメージを失ってしまったら、政治家や政治運動家としての意味は半減してしまうのだ。もっときびしくいえば政治家(政治運動家)失格なのだ。
 一般の国民大衆は政党のイデオロギーの差異については第二義以下の大ざっぱな判断しかもってはいない。だがどんな立派な政治基本方針やイデオロギーを掲げても、実際にじぶんたちのところまで響きが伝わってこない行動をすれば、即座に第一義的な判断ができる存在だということは忘れてはならないといえる》(『超資本主義』徳間書店、1995、p.112-113)
 
 また、こんなことで潰れたら最悪だな、と思っています。
 
 実は、ずっと探しているのに引用箇所が見つからない文章があるんですが、吉本さんは、細川政権に本当に期待していたんだな、と感じていました。それは"自民党の最良の理念と、社会党の最良の理念が、小沢一郎を中心とした政策決定機関でぶつかり合い、融合することを夢見ていた"みたいな感じの文章だったのですが、似たような思いを小生も持っていたので印象に残っています。

Posted by: pata | October 15, 2007 at 04:20 PM

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