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October 02, 2007

『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』

Jarhead

『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』アンソニー・スオフォード(著), 中谷和男(訳)

 『不肖・宮嶋のビビリアン・ナイト』で紹介されていまして、4年前の本なんですが購入。映画化されていたことも知らなかったのですが、一読、DVDも購入しました(Blu-ray化してほしいけどHD DVD系列みたいなのがやや残念…)。

 なんといいますかラップ世代の戦争ドキュメンタリー。湾岸戦争に出兵した米海兵隊員で狙撃兵が、ひたすら開戦を待ち、やがて戦端は開かれるものの、一発も敵に向けて銃弾を撃つことなく帰郷するまでの話。ちなみにジャーヘッドは海兵隊員の意味。極端に短く高く刈り上げた髪型がポットの形をしているからジャーヘッド。

 ブッシュ・シニアによってスタンバイをかけられたスオフォードが所属する小隊がまずやったことはベトナム戦争の映画のビデオを借りてきて、小隊全員で酒を飲みながら観ることだったというのは笑うな。《ベトナム戦争映画はどれも好戦的だ。どのようなメッセージを託そうとしたのかはわからないが、監督のキューブリックやコッポラやストーンが意図したものがなんであれ、それは戦争擁護の映画だ》《映画に描かれる死と山なす死骸は、闘う者にとってはポルノグラフィ》(p.14)というのはわかるなぁ。

 同じように小隊全員でビデオを観るシーンで忘れられないのが、砂漠に届いた慰問袋に入れてあった戦争映画。実はその戦争映画ビデオの中に手製のポルノをインサートして検閲をくぐり抜けさせた作品なのですが、なんとポルノを一緒に観ていた歩兵が、出演しているのが自分の妻だと気づいてしまうんです。そのお手製のポルノ映画の中でフードを被っている女性の《局部に見つけたほくろ、うめき声、クライマックスに達した時の首の振り方。目の前でイッてる女性は、兵士の妻だった。相手の男は隣人だった。彼は叫びだした。「俺の女房だ!俺の女房が隣の男とやってるんだ。なんてこった!」》(p.77)と。この兵士が叫び、泣きはじめてしまうので《誰かがビデオをとめた。たがジャーヘッドたちは、今夜、ビデオを巻き戻してもう一度観たいのだ。もう傷は受けてしまったのだから、奥さんの不貞ぶりをじっくり見てみりゃいいんだ》みたいな書き方は、本当にハードボイルド。

 スオフォードは戦場でも『イーリアス』やカミュの『異邦人』『シジフォスの神話』を読み、砂漠の塹壕掘りでは安部公房の『砂の女』を思い出すという人物。父親はベトナム戦争時代の空軍に勤めていて、沖縄などにも住んだ経験があると書いています。父親はPTSDに苦しみ、やがて家庭は崩壊しますが、スオフォードは両親の反対を押し切って17歳で自ら志願して海兵隊に入ります。そして契約書にサインしたからは、もう権利はない。お遊びは終わってしまった。あとはフセインを叩きのめすしかないと自分を納得させて戦場に赴くという納得のさせ方はなるほどな、と。

 この契約書にサインしてしまったのだから、という納得の仕方は印象的ですね。湾岸戦争のドキュメンターの中で、米兵たちが「この砂漠からの出口は、イラク方面にしかないから、そこを突っ切っていくだけだ」みたいなことを語っていて「詩人だな」と思ったのですが、そんなことも思い出しました。

 しかし、湾岸戦争当時の対毒ガス装備は本当にひどかったみたいで、こんなものを付けて戦ったのでは死んでしまう、という彼らの叫びは真実だと思います。しかも、ヒモが切れていたり、シールドがしっかりしていなかったり、フィルターまでなかったりして、最前線の装備というのは、こんなものなのか、と思いました。

 笑ったのはクウェート解放後、クウェート政府は展開している米兵ひとりに1万ドルの支払いを申し出たそうですが、《アメリカ政府は軍隊は売り物ではないと拒否した》(p.281)とのこと。

 2004年のファルージャ攻撃ではエミネムの曲を大音量でかけながら突撃していた米軍ですが、湾岸戦争当時は、まだツェッペリンやストーンズを流していたという時代の流れも感じさせてくれます。

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