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September 21, 2007

『歴代首相物語』

Rekidai_shusho

『歴代首相物語』御厨貴、新書館

 これまで戦前、戦後を通じての最悪の首相は日本を勝ち目のない対米戦に駆り立て、最終防御ラインであるサイパンが陥落した後も敗北を潔く認めなかった東条英機であることは衆目の一致するところだと思います。戦後に限って言えば、これまでは社会党内の右派・左派の対立で追加予算案が否決され総辞職した片山哲首相か、三本指で参議院選挙を大敗した宇野宗佑首相だったでしょうが、所信表明演説の後に職務放棄で入院するという醜態をさらした安倍晋三首相がワーストスリーに入ることは確実になりました。

 そんな中、福田vs.麻生の戦いを横目で眺めつつ、小泉郵政選挙の後、集中的に読んだ岸-福田派に関する本にざっと目を通すとともに、積んであった『歴代首相物語』御厨貴、新書館も読んでみたら、アタマの中が整理されました。歴史を急いで振り返ってみると、今まで気付かなかったような共通点や類似性がフッと浮かび上がるような気がしますよね。『歴代首相物語』はタイトルこそ最悪ですが、編集責任者は御厨貴さんなので、ちゃんとした本です。

 で、まあ、ナニを思ったのかといいます、今に続く戦後の保守政治の流れは、岸-福田派のラインと、田中-竹下ラインに大きく分けることができて、それは政策的にもアメリカの共和党と民主党に似ているじゃないか、ということ。 もちろん、こうしたおおまかすぎる類推は邪道だと思っていますし、福田康夫さんなら『一国は一人を以って興り、一人を以って亡ぶ』で語っているように、そんなことは単純比較なんかできないですよフフンと笑うかもしれません。でも、限界を知りつつ、ある程度、勘を働かせることは有益かもしれないんで…。

 ぼくは学生の頃は最悪にキライだったんですけど、後になって、角栄さんの政治は草の根民主主義なんじゃないかと思い直しました。地方振興や、それにともなうカネの問題などでダーティすぎる面はありますし、テイストも違いすぎるかもしれないけど、方向性としてはルーズベルト以降の民主党の誇りと共通点があるんじゃないかと思います。つまり、大きな政府によって社会を下支えする、という。越山会という名前は、悪の代名詞のようになってしまいましたが、元々は「いつも冬、雪に閉ざされるあの山を越えていつか繁栄をみんなで掴むんだ」という意味で付けた、割と感動的な名前なんです。

 『歴代首相物語』の中でなるほどな、と思ったのは、現在に至るまで、最後の本格政権だったのは竹下登政権だったということ。竹下政権は自民党第一派閥の長が首相の座に納まり、衆参両院においても自民党は単独過半数を握っていました。おまけに第二派閥の長である安倍晋太郎ともガッチリ手を握っていて、石原官房副長官ではありませんが、なんであんなに安定していた政権がガラガラと崩壊していったかは、本当に時の流れとしか言いようがないことなんじゃないかと思います。最後はボロボロになって辞めましたが、それでも消費税導入、農産物輸入自由化を実現したというのはさすがに本格政権でした。また、批判を浴びたふるさと創世資金の地方へのバラ撒きも、思い切り評価すれば草の根民主主義を根付かせたいという意志も感じられないことはないかな、と。

 元々、竹下さんなんか、青年会運動で農地解放を率先してやっていたりして、県議の頃から社会党と仲良かったりしていたし、資質的には村山首相なんかと似ていると思います。このほか、野中広務さんが府議時代から部落解放同盟で広く力をもっていたように、底辺からの力をうまくすくうんだ、という作風が田中-竹下派にはありました。しかし、田中角栄が舞台を去り、竹下さんが宇野後継で失敗したことから、経世会内部で竹下さんの求心力が薄れ、その間に金権志向が金丸信によって、権力至上主義が小沢一郎によって加速され、大切なものを失っていったように思います。小沢さんが、7月の参議院選挙を地方重視で貫いたことは、単なる選挙上手だったとも言えますが、もう1回、田中-竹下の最上の部分を思い出したんじゃないかと思ってみていました。

 一方、岸-福田派の流れで行われたことは、日米安保の強化であり、高度成長から総需要抑制策を経ての安定成長への切り替えであり(日本のGDPが相対的に一番伸びたのは第二次オイルショック後でした)、なんといいますか国の大きなシステムを替えるという構想を明確な意志を持って実行したことが特徴だと思います。政争には敗れたとはいえ、福田赳夫さんは政策では勝ったともいわれ、いまだ財政家として福田赳夫を凌ぐ実績を残した政治家はいません。この流れを汲む小泉内閣は郵政、道路公団改革を実現したほか、様々な規制緩和で日本の社会、経済システムを大幅に変えてしまいました。

 なんていいますか岸-福田派は意識的に分水嶺をつくり、田中-竹下派は本流から支流への水の流れを良くすることを心がけていた、みたい感じでしょうかね。

 そして25日に福田総理が誕生すれば、いよいよ、福田赳夫の長男vs.田中角栄の愛弟子No.1の対決が展開されることになります。角福戦争時代、福田赳夫はエリートの殻から抜けきれず、ドロ臭い人集め、カネ集めをやりきれなかったために、田中派に負け続けました。その怨念が当時、書生として住み込んでいた小泉純一郎に乗り移り、田中派の牙城だった郵政、道路公団の利権構造をことごとく叩きつぶすことにつながります。

 これまでのところ、岸-福田派のラインと田中-竹下ラインの勝負は角福戦争での田中派圧勝、小泉政権での旧田中派つぶしで一勝一敗。おそらくは、福田康夫vs.小沢一郎の後は参議院を巻き込んだ大規模な政界再編が起こると思いますが、その後にどんな風景が見えるのか、楽しみでもあり、不安でもあります。

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