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September 19, 2007

福田康夫『一国は一人を以って興り、一人を以って亡ぶ』

Fukuda

『一国は一人を以って興り、一人を以って亡ぶ』福田康夫 (著), 衛藤征士郎 (著) 、ベストセラーズ

 戦後最低最悪の首相の尻ぬぐいをさせられることになりそうな福田康夫氏ですが、その発言集って、2chの官房長官時代のマトメ以外にはあまりないんですよ。

 唯一、活字媒体でまとまった発言が読めるのは『一国は一人を以って興り、一人を以って亡ぶ』。衛藤代議士との対談本で聞き手は明石散人。衛藤氏は森派内の福田親衛隊みたいな人で、戦後最低最悪の首相の提灯持ちだった山本一太参議院議員とポジションは似ています。もっとも、後藤氏は防衛庁長官をつとめており、山本一太よりは明らかに格上だし、ロックバンドをバックに安倍礼讃の歌をシャウトするなんていう醜態はやらなさそう。とはいっても、この本は元々、衛藤征士郎のPR用に作られた本みたいです。もちろん今は絶版。ゲットしたのはネット上の古本屋さんなんですが、送られてきた本には版元の月報とともに「衛藤征士郎特別セミナー」への参加御礼が入っていました。まあ、そういった用途なんでしょう。ですから、正確には福田康夫の本ではないのですが、これだけの分量で語っている本はないと思うので、貴重かなと思って福田氏の発言を紹介します。

《日露に平和条約がないということは非常に深刻に考えるべきです》(p.21)

 これって結構思い切った発言だと思いますし「非常に深刻」というのは言葉としても重い。

《(アメリカは)世論が健全であるかどうか、バランスが取れているかどうかがとても大事です。そうしたことが、結局アメリカを信用できるかどうかということに繋がってきます》《普通戦争をする時であれば、世論は圧倒的にブッシュ大統領支持になると思いますが、反対する勢力が結構多いということ、健全な世論が今も存在しているということではないでしょうか》(p.40)

 結構バランスとのとれた見方をしていますね。

《明石さんは戦前の日英同盟と今日の日米同盟に類似性を見ているようですが、日英同盟は昔の話ですね。現在の日米同盟とは比べようがありません。それは国際情勢や両国が夫々これほど変わっている状況で、簡単に比較してはいけないと思います》(p.43)

まっとうな歴史認識と慎重さを感じさせてくれます。

《アジア通貨危機の際に、欧米の投資家は逃げましたが日本は逃げずに残ったんです。残っただけでなく、日本は外貨不足に陥ったその国の政府に緊急融資をして救ったということもありますから、そういう面の信用は非常に大きいと思います》

 アジア重視の姿勢の中で、地に足の付いた論議をしているんじゃないでしょうか。

《日本は常任理事国に参加したいということですから、憲法改正とは関係がないと言えます。憲法改正はしないで今のままでできることをやっていけば良いんです。それは正に日本の戦後の平和外交そのものということでしょう》(p.75)

今回、醜態をさらした憲法改正小児病者とは明らかに質が違いますね。

《(女性で)部長待遇の給料を貰っている、という人は結構いるようですから、そいう人を含めると9パーセントぐらいになるようですが、本当のラインの部長といったところをみると、殆どいないのが現実です》

 「ラインの部長がいない」とちゃんとしたまっとうなサラリーマンの言葉で女性の社会進出の問題点を語っているのが目をひきます。

 《(誰がやっても同じだから選挙に行かないという人について)誰がやっても同じというのは、誰がやってもまあまあのところへは行くんだろうという期待でしょう》

 シニカルだけど真実を言い当てている。しかも、政治的な暴言にならない範囲で。

《(参議院改革について)できるでしょう。憲法改正が前提ですが、その前でも部分手直しは可能です》(p.135)

自民党がもっとも手をつけたいのは、ここでしょうね。参議院改革ができなければ、小泉元首相のような人気が続かないかぎり、参議院選挙で敗れて退陣というパターンが続くんじゃないでしょうか。

《(首相は)四年堅持できないような人はならないほうがいいです。一年間全力投球でやりますなんて言う人は駄目ですよ》(p.141)《六年、七年という可能性をまだ残して四年で辞めるのは良いですけれど》(p.146)

 福田赳夫さんは80歳を過ぎでもOBサミットなどで活躍しました。本人も自分の健康には自信があるのかもしれませんね。それにしても1年ももたずに途中で公職を投げ出すような前任者は本当に「駄目ですよ」ね。あと、父、赳夫氏がやろうとしてできなかったデノミには、けっこう執念をもやしていまして、1ドル、1ユーロ、1円で《為替レート競争するというのが良いと思いますね》(p.149)というのは、やはり親父さんの影響というのはあるんだな、と思いました。

《これが政治、というのを話すとごくごく当たり前の話になります。なんだ当たり前のことを言ってるな、というのが政治の本当のところなんですよ。世の中っていうのは静かに変わっていくんです。静かなる改革が一番良いんです》(p.153)

ここらはあたりが政治信条なんでしょうね。

 あとがきで明石氏はこんなエピソードを紹介しています。突然の官房長官辞任会見の後に福田氏が秘書官に語ったひと言についての秘話。福田氏はこう語ったといいます《「これが政治だ、と言いました。ざまあみろなんて下品なことは言いません。政治の一寸先は闇、だから政治家の進退は、自分の言葉で公にするまで、誰にも相談することなく、自らの心にじっとしまっておく、政治家の言葉はそれほどまでに重い、という意味を込めて、エレベーターの中で秘書官にそう言ったんです」》(p.186)。

 言葉が言葉の上を上滑りするような感の、しかも『美しい国』などと臆面もなくのたまわった前任者よりは、少なくとも重みのある言葉を語る首相になる感じは受けます。

 しかし、まさか、郵政選挙での自民党大勝にショックを受けて始めた清和会研究の初期には、四代続けて清和会から首相が出ることになるとは思ってもみませんでした。 とりあえず、ご参考までに…。

『回顧九十年』福田赳夫、岩波書店

『岸信介回顧録―保守合同と安保改定』岸信介、広済堂出版

『岸信介証言録』原彬久、毎日新聞社

『巨魁 岸信介研究』岩川隆、徳間書店

『自省録 歴史法廷の被告として』中曽根康弘、新潮社

『自民党を壊した男 小泉政権1500日の真実』読売新聞政治部、新潮社

『ゴットル 生活としての経済』吉田和夫、同文舘出版

『岸信介 権勢の政治家』原彬久、岩波新書

『岸信介の回想』岸信介、矢次一夫、伊藤隆、文藝春秋

『官邸主導 小泉純一郎の革命』清水真人、日本経済新聞社

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