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September 16, 2007

『不肖・宮嶋のビビリアン・ナイト下』

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『不肖・宮嶋のビビリアン・ナイト 下 爆弾ドカドカの巻』宮嶋茂樹、祥伝社

 ラムズフェルドの戦争だったアフガニスタンとイラク戦争における米軍の戦いは圧倒的なものでした。それこそ、相手正規軍は瞬時に消滅してしまったような感じ。こうした強さは、ベトナム戦争での奇妙な敗北を反省した成果。ベトナム戦争の戦死者は南北ベトナム両国で100万人といわれているのに対して、アメリカ軍は派兵数全体の約10%にあたる58,000余名が戦死したそうです。この比率は、ざっくり100:6。それでも、米国は戦争を継続する国内の支持が得られませんでした。軍事的には圧倒的に勝っているのに、北爆を強化すれば国際世論から無差別猛反発を受け、国内でも戦死者の数があまりにも多いと非難され続け、ニクソンはパリ協定にむかわざるを得ませんでした。そしてラムズフェルドは、湾岸戦争で威力を発揮した遠距離からの精密誘導兵器で相手をまず叩き、その後は航空支援を受けた少数の機動力のある地上部隊でバクダッドを素早く攻略する、という作戦を立て、もののの見事に成功します。兵力の格差はあったものの、自軍にほとんど損傷を受けずにこれほど見事に一国を制圧したという作戦は世界史的にもあまりない思います。

 ぼくも、この時点で間違えました。アメリカ強すぎ、と。しかし、ラムズフェルドも「我が軍つえー」と間違えたわけです。その後の制圧に、十分な兵力を展開させなかったために、せっかく収まりかけた事態は泥沼化。結局、ブッシュは米軍を増派することによって、イラク国内を改めて制圧しなければなりませんでした。まあ、とにかく『ビビリアン・ナイト』下巻は、いよいよバクダッド制圧の話。

 ビビリアン・ナイトの不肖・宮嶋は、いつもより不機嫌さが目立つように感じます。酒が飲めない環境でストレスがたまっていたせいでしょうか、それとも《空爆の時、私の部屋で「写るんです」のストロボをぶっ放した》(p.19)ような危機管理もできないアマチュアの「盾」ビザのシャーナリストやカメラマンがあふれかえっていたからでしょうか。「盾」ビザ・シャーナリストとは、米軍に対して人間の盾になると宣言してイラクに入国してきた連中ですが、不肖・宮嶋の上官、故・橋田信介氏のように、さらにその上のイスラム戦士となって米軍と戦うと宣言するムジャヒディン・ビザで入国してしまうような人もいるのですから《「ドッハハハハッ、やっぱり、コイツらバカだなあ!」》(p.238)ということなのかもしれません。

 しかし、ムジャヒディン・ビザもリスクは相当高い。ムジャヒディンなら銃を執って米軍と戦わなければなりませんし、逃げ出そうものなら敵前逃亡はどこの軍隊でも銃殺。さらにバクダッドに向かう途中で米軍のチェックにひっかかったら《戦闘員と判断されて捕虜。その際、少しでも抵抗するアホがいたら、まとめて射殺されるであろう。むちゃくちゃリスクが高い。ほとんど自殺行為である》(p.103)というんですな。

 それでもバクダッドに向かうのはリターンが大きいから。《「戦争で笑うのはジェネラル(将軍)とカメラマンだけである」沢田教一先輩の言葉だったか…今しみじみそう思う》(p.152)《帰国後しばらくは、驚いたことに民放番組への出演が続いた。しかし、最も驚いたのは銀行通帳を記帳した時であった。「ゼロが?ゼロが…ゼロが!」単独の取材のギャラとしては破格の金額が振り込まれていたのである。文藝春秋だけでなく、民放からも…。こういうのを「ジェロジェロ、ワンダフル!」というのであろう》(p.411)。

 戦闘シーンの描写もさすがです。細かいところまで押さえています。

 《A-10の実戦地上攻撃を肉眼で見た日本人は私が最初であろう。シュールである。今、私の目の前で「サンダーボルト」の三〇ミリ機関砲が国土計画省と、その中に立て籠もるイラク兵を串刺しにしている。鉄筋コンクリート一〇階建てほどの官庁ビルを串刺しにする貫通力からして、おそらく劣化ウラン弾、それを波状攻撃でブチ込んどるのである。機関掃射の一太刀を振るった「サンダーボルト」はスパッ、スパッとフレアを撒いて急旋回した。黒い怪鳥からピンクの火の玉が煙を引きながら遠ざかっていく。マニュアルどおり、パイロットがフレアを発射したのであろう。フレアは引力に任せてゆっくり落下していく。国土計画省からは硝煙と劣化ウラン弾のチリだけが漂っていた。後に豊田カメラマンが、ご丁寧にもガイガーカウンターを持ち込んだところ、ビビビーと針が大きく振れたという》(pp.177-178)。

 バクダッドの陥落直前の不安な心境も包み隠さず書いています。《これが最後の現場や…、最後の戦争や…。そうであればこそ、悔いは残したくない。それなのに、今、オノレが何をしたらエエんか、全然わからん》(p.180)。米軍のM1戦車に撃たれたホテルの現場では、一枚の写真も撮れなかったとも告白していますが、市内に侵入しはじめたUSマリーン・フォース・リコーン(強襲偵察隊)を広角レンズで撮れることに感動していきます(p.261)。《歩兵部隊にはちゃんと狙撃兵(スナイパー)が付いとるのである。スティーブン・ハンター原作の『極大射程』のボブ・リー・スワガーのように、ちゃんと着弾観測員が控えとる。こんなモロ特殊部隊を目の前で、しかも広角レンズで撮れるとは…》。その気持、少しだけわかります。

 そしてバクダッドは《人間らしい理性を保っているのはわずかに医者と緊急隊員と墓堀人夫だけ》(p.135)という状況になっていきます。

 陥落後のバクダッドを取材していて、水と食糧がなくなり、米兵にスラヤ(衛星電話)を貸して家族に電話をかけさせるかわりに、MRE(軍用保存食糧)をゲットする場面なんかもよかった。不肖・宮嶋のITオンチぶりはだいぶ解消されてはいますが、大量の圧縮していない写真データをまとめて送ろうとしたり《アップルの創業者ビル・ゲイツなるヤツが大金持ちなのも知っとる…》(p.129)とかますのはご愛敬。

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