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September 14, 2007

『不肖・宮嶋のビビリアン・ナイト上』

Bibilian_night

『不肖・宮嶋のビビリアン・ナイト 上 爆弾ボコボコの巻』宮嶋茂樹、祥伝社

 不肖・宮嶋シリーズは3年振りとのこと。上官、橋田信介さんをイラク戦争の直後に失い、それと自衛隊の駐留をテーマにした『サマワのいちばん暑い日 イラクのど田舎でアホ!と叫ぶ』以来。宮嶋さんは、前作や写真集でも、爆撃にカメラを投げ出した瞬間から第一線を引くことを決めたと書いていて、そうした内面の変化と、いつまでたっても変わらないように見えるイラクの現状に、どう対応していったらいいのかという問題と、その後、収入が1/3になってしまったと語っているように、確実に戦争が少なくなってきた世界に対して、どう対応したらいいのか、というような葛藤があったのではないかな、と思わせます。とにかく、堂々の上下2巻。

 まえがきが正直です。《孔子様も言うとるように「温故知新」なのである。同じ過ちを繰り返さんためには、故いことをきっちり学ばんとイカン。当時の私が、メディアが、日本政府が、いや世界中が、いかにトチ狂い、読み間違えたかを笑いながら確認してください》という問題意識は本当に素晴らしい。当たり前ですが、ぼくも間違えました。でも、間違え続けたことを認めようともせず、辞任を明らかにした後のメルマガのタイトルにも「改革、テロとの闘いを前に進めるために」と書いた戦後最悪の首相と違って、日々、報道されることからしかうかがえないにしろ「なんか違うんじゃないんか」と疑問を持つことの健全さを大事にしていきたいと感じます。

 不肖・宮嶋の素晴らしさは、この人以外には、ここまで書かないだろうな、という言い切りです。

 アメリカがいつイラクに攻め込むかという時期、不肖・宮嶋はヨルダンの首都アンマンでイラク入国を狙っていました。もちろん、バクダッドでイラク陥落の瞬間をとらえるためです。《アメリカがズルズル開戦を延ばし、ヤラなかった歴史的事例を私は知らない。ずてに二〇万人とも三〇万人とも言われる米軍部隊が展開しているのである。それだけの舞台の食糧、武器、弾薬、宿泊施設のロジだけで、一日数万どころか、数億ドルが飛んでいるのである》(p.33)みたいな言い方。

 そして、イラクとのボーダーを超えるために、仲間のジャーナリストたちを巻き込んだ虚々実々のやりとり。うごめくうやしげなアラブ人。最終的には人間の盾の志願者として入国してしまおうとまで思い詰める、切迫した状況。実際、故・橋田さんなんかは、カラーコピーのビザで入国したり、1回追い出された後イラクを米軍から防衛したいとシリアの入管に申し出て、ムジャヒディン・パスをせしめて入国したりするのですから、地味ながらも前半の入国までのやりとりは面白い。しかし、イラク政府はインマルやRBGANなどの通信機器に対して外国人ジャーナリストに1日100ドルの税金をせしめていたというんですから、なにをかいわんやです(p.113)。あと、イスラエルへの入国した際にパスポートにそのスタンプを押されると、アラブ諸国では入国を拒否されるので、絶対に押させない、というなんとも生々しいノウハウも紹介されます(p.123)。

 上巻だけで400頁もある本ですが、イラクに入国するのはようやく半分あたりから。いきなり陸路から入国したドライバーの親類が爆撃で殺されていたというエピソードには驚きます。

 印象的なのは標準は400mmとうそぶく不肖・宮嶋さんのレンズ論。キャパの言葉を信じ込みせいぜい100mmか135mmまでの望遠しか持っていないナクトウェイやイルッカなどの世界的な報道カメラマンに対して《彼らはキャパの言葉の真意がわらっとらんのである》《物理的な距離ではなく、根性の問題、「被写体に迫っていけ」ということであろう》と解釈し、キャパの全盛時代はピントの合わせにくいレンジファインダーであり、いまや明るくピントの来る望遠レンズが出てきたのだから、そうしたレンズを使え、というのは説得力がありますね。

 そのナクトウェイが使っているのは、もちろんキヤノンの1Ds。13階のホテルからイラクの役人に放り投げられた1Dsは植木にリバウンドしたせいか、奇跡的に回復して使い続けることができたというのは、伝説的な話ですね(p.263)。ニコンなら、すぐに一面広告つくっちゃうかもしれないけど、あのメーカーはそうしたことをしないのがいいのかも。

 しかし、ぼくは初めて不肖・宮嶋が友だちと言えるようなアラブ人、ファドに巡り会ったことを喜びたいと思います。

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