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August 18, 2007

八月納涼歌舞伎『裏表先代萩』

Kabukiza0708

 実際にあった伊達騒動をもとに安永六年(1774年)に上方で初演されてバカ当たりしたのが「伽羅先代萩」(めいぼくせんだいはぎ)。「お家物」ジャンルの代表であり、立女形役の頂点の役とされる乳母・政岡(めのと・まさおか)でも有名。

 その「伽羅先代萩」を四世鶴屋南北先生が改作したのが『裏表先代萩』。通し狂言で歌舞伎座の八月納涼歌舞伎で上演されました。戦後でも4回目の上演ということで、もちろん初めてみました。

 「伽羅先代萩」と小助という小悪党よる主殺しの話が交互に展開する趣向。しかも、小助に殺される御殿医・道益は、伽羅先代萩で主君・鶴千代殺しのための毒を処方した医者であるという入れ子構造になっているという複雑さ(昔は、口封じに殺された道益の妻が、乳母・政岡に悪事を告げるという脚本もあったそうです)。いやー、何回も書きますが、ぼくたちのお祖父ちゃんたちは、ものすごい高度なことを考えていましたよね。

 『裏表先代萩』では勘三郎さんが小助、乳人政岡、仁木弾正の三役を演じています。95年に国立劇場で上演された時には菊五郎さんがやはりこの三役を演じていまして、まさに歌舞伎ならではの配役の妙ですね。

 さて、「伽羅先代萩」の乳母・政岡といえば、歌右衛門さんです。つか、歌右衛門さん以外で乳母・政岡を見たのは初めて。勘三郎さんは片はずし(御殿女中などの役)は初めてとのことで、やはり違和感は感じたのですが(裲襠とか地味だし…)、所々、歌右衛門さんから教わったんじゃないかな…なんて感じが出ていて、懐かしい感じがしました。

 あまり、よく分っていないので生意気なことを書くのは気が引けるのですが、例えば我が子・千松を殺した八汐を刺して御簾が下りる場面。歌右衛門さんは、八汐を刺してきまってチョンだったのを、さらにきまり直して正面を向いてからチョンと析が入って御簾が下りると直したと思うんですが、それをキチンと踏襲していました(それとも、いまはみんなこのかたちなんですかね?)。

 伽羅先代萩では毒殺を恐れる乳母・政岡が茶道具でご飯を炊いて食べさせるという「飯炊き(ままたき)」の場面が見せ所のひとつなのですが、裏表先代萩ではすっ飛ばされています。ただ、もちろん、主君である鶴千代の代わりに毒の入った菓子を食べて死んだ千松を「でかしゃった」とほめる"くどき"の場面はあって、そこは何回みてもいいといいますか、歌舞伎だけで表現される世界ですね。

 自分の息子が死んでしまったという深い悲しみと同時に、やっとつとめを果たして自分の元に戻ってきたという安堵感のようなものがセリフ、演技に感じます。特に「三千世界に子をもった」の時の、両手を挙げて三味線に合わせて踊るような芝居。深いです。

 大好きな孝太郎さんは沖の井の役。千松に手をかけた八汐に「お上の裁定もないままに幼い子を刺すとは何事」と懐刀を手にとって問い詰めるところのかたちがキレイでした。いつか孝太郎さんの乳母・政岡を見てみたいです。

Chateau_mouton_rothschild_aile_darg

 見物のあと、移動した先のワインバーでいただいたChateau Mouton Rothschild, Aile d'Argent Blanc[2004]の隠れた果実味とまろやかなコクが『裏表先代萩』の印象と重なりました。

千秋楽は29日まで。お見逃し無く。

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» 八月納涼大歌舞伎第三部『通し狂言 裏表先代萩』@歌舞伎座 [ドンカンはツミである]
具合があんまり良くなくて、本当は第一部も観劇する予定だったけどキャンセル。残念! その分、第三部は楽しませていただきましたよぉ。 ・下男小助/乳人政岡/仁木弾正:中村勘三郎 ・足利頼兼:中村七之助 ・栄御前:片岡秀太郎 ・荒獅子男之助:中村勘太郎 ・下女お竹:中村福助 ■序幕 花水橋の場 七之助の立役は初めて見ました。でも、声が高いから女形みたい。裏声を使わなくても、実声で女形ができちゃうんですね。 頼兼は「ぜいたくな若殿様」であることの象徴として、高価な伽羅の香木... [Read More]

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