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August 22, 2007

『言語学フォーエバー』

Linguisties_foreever

『言語学フォーエバー』千野栄一、大修館書店

 『打ちのめされるようなすごい本』米原万里で紹介されていた、東欧系の言語学者、千野栄一先生の遺稿集。ご本人は「ぼくは研究者ではなくて、言語学はおもしろい、と言う啓蒙家だったと思う」と謙遜しておっしゃられていたそうですが、とかく純粋理論か実用語学かに二分されやすい言語学について、素人にもわかりやすく、その広がりをかいま見せてくれます。

 《鹿という単語をインディアンから採集しようとした言語学者が、いろいろな回り道のすえ、この鹿が誰の鹿であるか(すなわち、名詞に人称がある)、また、見えるか見えないかで別な語があることを知ったとき、こんなに二つの言語が異なっては両言語間の翻訳は不可能だと考えたくなったのも無理はない》(p.38)なんていう話は面白いですなぁ。

 しかし、少数民族などが話す自然言語はこの1世紀の間に70~90%は消滅して無くなると言われているそうでして、そうした研究は収入につながらないということもあっても、何とかしてせめて記録だけは残してほしい、と最後は祈るような言葉で締めくくられています。

 浅学非才な身としては、言語学の純粋理論というとソシュールとかチョムスキーあたりの名前しか浮かばないのですが、東欧圏の学者さんだけあって、プラーグ派の理論を紹介してもらえたのは嬉しい限り。なんでも《言語は、言語とその部分との関係、言語と言語との関係、言語と言語外現実との関係の三つにわかれ、ここがすごいところだが、この三つ以外にはないという。そして、その三つは、それぞれ共時的、通時的の二つの観点から研究が可能であるとされている》(p.258)そうです。これなんか、ランガージュ、ラング、パロールなんていわれるよりよっぽど分かりやすい感じ。

 六書の『仮借』と『転注』に関して《『仮借』が同じ音を持つ別の字をあてるのに対し、『転注』は同じ意味を持つ別の字をあてることだ》(p.97)という河野六郎教授の『転注考』なんていうのも勉強になったなぁ(p.97)。限りなく透明に近い青の青を「ブルー」と書けば、そこから青チーズと書いて「ブルーチーズ」と読ませることもできるようになる、みたいな話。

 インドネシアの言語地図は衝突した自動車のフロントガラス並に細分化されていて、違った系統の言語は互いに通じないとか(p.141)、比較言語学を志すものは、ギリシャ語、ラテン語、サンスクリット語の知識は不可欠であり、近年それにヒッタイト語の知識も必要とされるとか(p.174)なんという話も刺激的でした。

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