『ガセネッタ&シモネッタ』
『ガセネッタ&シモネッタ』米原万里、文藝春秋
売れっ子になる前というか、まだ同時通訳という肉体労働半分の仕事を精力的にこなしていた頃の単文を集めたような本。でも、これって編集者の愛が構成にも感じられるというか、たぶん『旅行者の朝食』と同じ藤田淑子さんだと思うのですが、著者への愛が感じられて、飽きずに読ませてくれます。
当時は評判が地に落ちていたロシアというかソ連について、それほど捨てたもんじゃないんだ、ということを一生懸命、説明しているところが切なくていいです。
個人的に非常に感心したのは『フィネガンズ・ウェイク』を訳した柳瀬尚紀さんとの対談。
今の国際会議などで使われる翻訳者のブースなどを含む同時通訳のセットはIBMが戦前に開発したそうです(なにせ元々International Business Machineですから)。最初に納入されたのか国際連盟だそうですが、当時の国際後は英語かフランス語だけだったので、たいして役に立たないということで1回しか使われなかったそうです。IBMの同時通訳セットを本格的に使用し、その後、規模を拡大させていったのはコミンテルン。さすが万国の労働者よ団結よせ!です。
この姿勢はCIAとKGBというかアメリカとソ連の外交姿勢にもあらわれていて、アメリカ人はどこでも英語で通すけど、ソ連は85カ国語ものエキスパートを養ったそうです。
ここで、思い出すのは、個人的な知り合いの某上場会社の役員を今年辞めた元山村工作隊員の話。彼は某外語大学のインド語学科に日共の国際派の指示で入ったというのですが、それは前も書いたけど、中国の後にインドで革命をやってしまえば、人口的には世界の2/3ぐらいは共産主義なので、とりあえず、お前、世界革命のために行ってこい、という希有壮大なプランだったのです。すごいな、と思ったのですが、この『ガセネッタ&シモネッタ』を読むと、その国際派の作風というのは、コミンテルンの"世界好き""語学好き"からきているのかな、と。何事にも歴史あり、といいますか。
米原さんの本は、この後『打ちのめされるようなすごい本』を読んで、いったん中断しようと思います。
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