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July 23, 2007

『旅行者の朝食』

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『旅行者の朝食』米原万里、文春文庫

 ペレストロイカの時期、やたらソ連の経済関連のミッションが来日したことがありました。そうしたミッションの懇親パーティなどに行くと、必ず同時通訳で活躍していたのが米原万里さん。当時はまだ細く、輝くばかりの美しさ。こうした際、ソ連側の団長はスピーチの最後に「個人的に今回の来日が成功した大きな理由のひとつは、美しい米原さんの通訳の支えがあったから」と必ず付け加えることを忘れず、米原さんも少しはにかみながらも「美しい米原さん」と日本語で訳していたのを覚えています。自分で訳すか、みたいな。

 当時は「親父さんが日共幹部でチェコのソビエト学校に通っていたから、率直すぎる性格になったのかw」と思っていましたし、個人的にも「まあ民青だろうしなw」と苦々しく感じていたりして…。その後、ペレストロイカブームはあっという間に去り、8月革命などの政治的激動が続く中、テレビで見ることが多くなってきましたかね。同時通訳の傍ら、エッセイなども出して、そかもそれが手練れた内容だったとは聞き及んではいましたが、「まあ、いいでしょ」と手に取ることもありませんでした。

 先日、読むモノがなくなって、六本木ABCの文庫コーナーをブラついていたら文春文庫の『旅行者の朝食』が目に入ってきました。題名上手いじゃないですか。最初はグルメ本だとばっかり思っていて、「そういえば旅先の朝食だけに焦点をあてたような本ってあまり知らないな。けっこういいとこついてくるじゃない」と思って一読。驚愕しました。

 最初の「卵が先か、鶏が先か」では、おそらくプリマコフだと思うのですが、その同時通訳で「アブオーヴォ」という単語が訳せずに窮地に陥ったが、なんとかうまくとりつくろった、みたいな経験が、フランクに語られているのが素晴らしい。会議が終わって辞典を調べるとAB OBOはラテン語だったということがわかります。同時通訳者たちの悪夢は《スピーカーがいつギリシャ語やラテン語の慣用句や有名な詩の一節を原文のまま口にするか》(p.12)ということ。これは米原さんも書いているように《日本人が漢文の故事来歴を好むのと同じ》(p.13)というあたりは少し、個人的に反省しました。

 あと、本のタイトルにも採用された『旅行者の朝食』。ロシアンジョークで『旅行者の朝食』がオチになると、なぜかロシアの人たちは抱腹絶倒するのですが、そのワケがわからない…といったあたりからはじまって、それがソ連時代のマズイ缶詰だったということがわかって、たいていはマズいものが多いけけど中にはフォアグラと間違えるほどの鱈肝の缶詰などもあったという思い出につながり、最後は、そうしたものも輸入品に席巻されてしまい、いまでは「旅行者の朝食」も懐かしいと感じる、と終わる流れは、悠揚迫らず、見事なもの。

 このほか、蕪や黒パンなど東欧圏の食品に関する蘊蓄はどれも初めて聞くようなものばかり。

 これから、しばらく、米原さんの本を読んでみようと思いました。

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Comments

米原女史の著作ではこれが一番好きです。

Posted by: PINA | July 24, 2007 at 01:30 AM

おお、そうなんすか!
『ヒトのオスは飼わないの?』を読み終わって、朝から『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読もうか、とw

Posted by: pata | July 24, 2007 at 07:45 AM

「嘘つきアーニャ」はもしかしたらまだ読んでないかも…。
「不実な美女か貞淑な醜女か」「魔女の1ダース」「ロシアは今日も荒れ模様」なんかも私は面白かったです。

Posted by: PINA | July 24, 2007 at 12:04 PM

途中ですが「吉本ばななの『TUGUMI』みたい!」と感激しております。ええでっせぇ。

Posted by: pata | July 24, 2007 at 04:12 PM

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