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July 13, 2007

『世界史の教室から』

Histrory_school

『世界史の教室から』小田中直樹、山川出版社

 《多くのヒストリアンにとって、歴史を学ぶといういとなみは「語る」という行為を含むし、せっかく「語る」のであれば聞き手に声を届かせるべきだからである。それゆえ、ぼくらは彼(女)たちの日常的な実践から多くを学ばなければならないーぼくはそう思う。皆さんはどうだろうか》(p.161)

 いつもながらいいですね。素晴らしい問いかけだと思います。

 この本は、昨年、世間を騒がせた高校世界史の未履修問題が明らかになる前に構想されていたと「はじめに」ありますが、タイミングとしてもベストの時期に出されたんじゃないかと思います。今やすっかり忘れ去られたこの問題ですが、様々な論議がなされていた時点でも、語られなくなった今でも、置き去りにされていた問題がある、と。それは《現場にいる存在たる教員の顔と声と意見》であるというんですね。

 ということで小田中直樹先生が、高校で世界史を教えている教員51人に1)授業の準備2)「歴史教育」としての側面3)「社会科教育」としての側面4)教育方法5)コンセプト総合6)高大連携ーの大項目の中からさらに多くの質問を投げかけながらインタビューをこなしたものをまとめたのがこの本。インタビューする相手は、まず行った大学生のアンケートで優秀だと推薦された教員だといいます。こんなの読んだことありません。しかも、その51人の先生に全員、個人的に1時間半から4時間かけてインタビューを行ったというのですから労作です。

 正直「高校教員に対するインタビュー調査の分析その1、その2」はムズカシ的といいますか、よくわからないのですが、優れた教員は授業の上で「つなぐこと」と「くらべること」を生徒の興味と関心を喚起する上で重要だと考えているらしい、という結論を導き出します。

 「第5章 因果をいかにたどるか」と「第6章 いかに他者に接近するか」では、小田中先生による研究史のサマリーが読めてお得。《科学としての歴史学のツールとしてはヴェーバー・ドレイ・スコチポル・シッカート型のアプローチで十分と判断した》(p.115)という部分はメモいたしました。「第6章 いかに他者に接近するか」はコミュニケーション論といいますか、授業は可能か?という問いかけにも思えました。

 個人的に聞いてみてもらいたかったな、と思うのは漠然としているかもしれないけど「教養としての世界史」という視点です。「いかに生くべきか」という答えようのない質問に役立つかというよりも、この社会で生きていくならば必須の知識なんだ、みたいな視点。

 まあ、そんな生意気な疑問よりも、世界システム論はポテンシャルはあるものの、授業に活用するのは難しいという話や(pp.153-)、高校の世界史の教諭の方々にはアナール派のうち「心性史」アプローチがインパクトを与えてきたというのは意外で面白かったですね(p.156)。

 あと、会ってみたいと思ったのは18の先生。《ヘーゲルを援用し、「歴史は自由の獲得と理性の自己実現とのプロセスである」といった話もしています》(p.94)。いいなあ、熱い授業なんでしようね。もっとも、小学校4年生以来、マジメに授業というのは聞いたことなかったのですが…。

 いつもながら、素直に「知らなかったのも恥ずかしいけど、とにかく面白そうだから、次にこれを読んでみよう!」と思わせる本の紹介の仕方は素晴らしいと思います。ということで、こんな本も読んでないのかと呆れられそうですが『インディアスの破壊についての簡潔な報告』、ラス・カサス著、染田秀藤訳、岩波書店、1976年と『民主主義の逆説』シャンタル・ムフ著、葛西弘隆訳、以文社、2006年を注文しました。あと、個人的な興味から『神か黄金か―甦るラス・カサス』グスタボ・グティエレス、染田秀藤訳、岩波書店、1991も。解放の神学というのは、ちゃんちゃらおかしくって…みたいな感じでしたのでグティエレスさんの本なんかマトモに読んだこともなかったのですが、この際、チラッと読んでみるか、みたいな。

第1章 大学生に対するアンケート調査の分析
第2章 高校教員に対するアンケート調査の分析
第3章 高校教員に対するインタビュー調査の分析その1 なぜ歴史を語るのか
第4章 高校教員に対するインタビュー調査の分析その2 歴史をいかに語るべきか
第5章 因果をいかにたどるか
第6章 いかに他者に接近するか
終章 歴史の語りかた

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Comments

pataさん、いつもながら拙著を丁寧にお読みいただき、大変ありがとうございました。ちなみに、本当のどの先生も熱かったです。こっちがパワーをもらいました。なお、たしかに「同じ番号の先生の発言をつなげて」お読みいただくと、手間はかかりますが面白いと思います。

Posted by: 小田中直樹 | July 16, 2007 at 11:57 AM

小田中先生、コメントありがとうございます!
18の先生ですが、94頁のコメントを読んだ後、前の方を探して《(生徒をひきつけるのに必要なのは?)生徒を認め、人間として対等にとりあつかうことだと思います。呼びすてにしない、間違っていたら訂正して謝罪する、ということです。「知っていなくても変ではなく、これから一緒に勉強してゆこう」というスタンスをとることです》(p.80)という発言を読んで「おお、今ごろ、こんな先生もいるんだな」と感動しました。

Posted by: pata | July 16, 2007 at 04:50 PM

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