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July 26, 2007

『ヒトのオスは飼わないの?』

Hito_no_osu

『ヒトのオスは飼わないの?』米原万里、文春文庫

 米原万里さんの本は2冊目。実は、この後、読んだ『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』に感動して(これは東欧版の『TUGUMI』でしょ!)、それをどうやってまとめたらいいのかわからないのですが、とりあえず、読んだもん順ということで。

 遺作となったのが『終生ヒトのオスは飼わず』であったように、米原さんの生活はネコ、イヌたちの同居生活とでもよべるようなものでした。

 ぼくはネコもイヌも飼ったことがないので、わかりませんが、家に先に住んでいるネコは新しいネコやイヌが来ると荒れるとか、知らなかったな。あと、失踪してしまったイヌを探している最中に、交通事故に遭ったんじゃないかと清掃局に尋ねると、クルマに撥ねられるのはほとんどネコで、イヌは相当耄碌したヤツじゃないと牽かれない、みたいな話や(p.344)、それよりも悲惨なのは動物実験用に捕獲されてしまうこと、みたいな話も(p.352)。飼い主不明の犬は、以前は大学や製薬会社の実験用に回されていたそうですが、動物愛護団体の圧力でそれが不可能になり、結局、ホームレスなどによる野犬狩りならぬ迷子犬狩りが、そうした需要を満たしているとか。野良犬は警戒心が強いけど、飼い犬は人なつっこいので、すぐに捕まえられるそうです。しかし、人間社会というのは、生物と同じで、必ず抜け穴というか基本的な欲求を満たす場所を見つけるもんなのですね。

 途中で幻想的なフィクションに流れていくような話もあって、『オリガ・モリソヴナの反語法』みたいな小説を書く才能の片鱗をみせてくれます。

 それにしても飾り気がないがない文章で上手い。書き殴っている感じなのに、ちょっと信じられないほど上手いです。

 全ロシア愛猫家協会会長や、アエロフロートのチュワーデスの話、それに日本で飼えば20万円もするブルー・ペルシャを2匹300ドルで売っているロシアの愛猫家の話など、考えつきもしない世界の話が読めるのが嬉しい。世の中の地平が広がったような気がします。

 それにしても『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』。共産主義を理想社会の建設であると信じていた多国籍の少女たちが通うチェコのソビエト学校で知り合った、ギリシア人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャそしてユーゴスラヴィアのヤスミンカという三人の消息を、89年以降に訪ね歩くというセンチメンタル・アドヴェンチャー。なんて素晴らしいんでしょうか。

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Comments

東側にあってこそ民族主義が強かったというのは、ソ連そしてロシア側に立っては見えてこないもので、米原さんほどうってつけのポジションにいた方はいないのだと、『嘘つきアーニャ~』で確信しました。
実はこれ、NHKの「わが心の旅」シリーズでの米原さんの旅が元になっているのではないのかと思うのですが、両作品の執筆・制作過程がはっきりしません。
(youtubeの奇特な方のは削除されちゃってますね。)

Posted by: hisa | July 27, 2007 at 11:27 PM

hisaさん、どーも。米原さんは相当ファザコンの強かった方だと思うのですが、16年間も潜伏していたことや、戦後、父親に貰った田園調布の家を党のためにうっぱらってしまったことなどを含めて、子ども心には「理想社会の建設に身も心も捧げた修道者」のように映っていたんだと思います。
アーニャに関しては父親や本人に対しても《父の夢見た共産主義とあなたの実践した似非共産主義を一緒くたにしないで欲しい》(p.152)と心の中で叫んでいたと書いていますよね。そんな感じ。
ぼくは、『アーニャ』は、だけでも、それでも、父親は大敗北を喫したんだということを確認するための旅だったんじゃないかと思います。
『わが心の旅』シリーズのことは知りませんでした。ぜひ、見てみたいですね!

Posted by: pata | July 28, 2007 at 07:09 AM

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