『双蝶々曲輪日記 引窓』
久々に国立劇場まで足を伸ばしてしまいましたよ。
まずは正面に飾ってある平櫛田中作、六代目がモデルの「鏡獅子」にご対面。宮内庁とか国立劇場ってのは、やっぱりスゴイですねぇ。こんなのちゃんと買ってあげて展示してくれているんだから。
出し物は『双蝶々曲輪日記』(ふたつちょうちょうくるわにっき)。四月に「角力場」を錦之介さんの襲名披露で観たばっかりなので、ちょっとした通し狂言みたいな気分で続く「引窓」を観ることができました。
しかし、竹田出雲、三好松洛、並木千柳の三大狂言トリオは素晴らしいですねぇ。改めてぼくなんかが云うこともないのですが、三大狂言トリオの脚本(ほん)は小道具の使い方がいつも素晴らしい。
まずは手水鉢の水鏡にうつったお尋ね者・濡髪長五郎と、ようやく郷代官という職を継ぐことのできた十字兵衛が顔をあわせるところ。空間が多重化するといいますか、物語が重層化して一気にスピードが加速します。
次には外題にもなっている「引窓」。引窓を開けて光を入れることで登場人物の心根が明るくなったり、閉めることで暗く沈んだりする様子を強烈に印象付けます。
ぼくは本当の意味で歌舞伎の台詞回しはわかっていなので、玄人さんたちの評価はわからないのですが、個人的には孝太郎さんのお早は、素晴らしかった。あんなに口跡が好い役者さんっていないんじゃないかと思っています。十次兵衛や濡髪長五郎の芝居の時、後ろの方でブルブルと震えているところなんかもよかったなぁ。
帰りは夜になると人通りのなくなる最高裁判所の前を通って、これまた人通りの少なくなくなる霞ヶ関の合同庁舎を抜けて日比谷線で帰ることにしているのですが、人目のないことをいいことに「マァ母様のわっけもない。お前が明日の放生会を、今日からお供えあそばす故、何もかも宵日(よい)からすることと存じまして、オオ笑止」とか「ほんに私とした事が、オオ笑止」とか「あれ、まだ日が高い」なんて台詞をマネて歩いて帰りました。
『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓』
作:竹田出雲・三好松洛・並木千柳
扇雀 :南与兵衛 後に南方十次兵衛
孝太郎:女房お早
亀寿 :平岡丹平
薪車 :三原伝造
竹三郎:母お幸
彌十郎:濡髪長五郎
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