『ロンドンで本を読む』
『ロンドンで本を読む 最高の書評による読書案内』丸谷才一、知恵の森文庫
こんな"インテレクチュアルズの密かな愉しみ"があったのか…早く教えろよ、というのに久々に会った気がします。しかし、それを知ったのが文庫化されてからというのも情けないのですが、まあ、それは浅学非才の身ということでお許しいただいて…
その愉しみとはロンドンで発刊されている新聞、雑誌などに掲載されている書評欄を味わうこと。丸谷才一さんにいわせると、イギリスでは貸本屋業が発展していて、作家はほとんど文筆だけでは食べていけないということもあり、副業という形で、書評を書いている、と。そして、例えばオブザーヴァー紙がアントニー・バージェスを擁するとか、それぞれ書評の大スターを押し立てて覇を競っているらしいのです。よって、素晴らしい書評のワンダーランドが形成されている、と。
いいですね。
サクッと読んでみても、オクスフォード版のコナン・ドイル全集に関して、両親がアイルランド人だからということで、註での緑化が激しすぎると酷評している「隠されたケルト人の謎」なんかは、ぼくが無知なだけかもしれないけれど、知らないことばかり(ドイルはイエズス会の寄宿舎学校で教育を受け、アーサー"イグナシウス"コナン・ドイルというのが正式の名前なんていうことも初めて知りました)。
『ファニー・ヒル』の書評の「わたしにとって、この世でもっとも魅惑にみちた主題は性と十八世紀である」という書き出しにはうなってしまいますし、コンパクト・ディスク版『オクスフォード英語大辞典』について「依然としてこれはヴィクトリア朝が生んだ至高のの叙事詩的成果、ゆったりと渉猟するこによって驚異を味わいうる逸品なのである」と珍しく絶賛しているアントニー・バージェスの書評も素晴らしい。
文庫ではオリジナルの41篇中、21篇しか納めていないということなので、さっそく、Amazonでマガジンハウス社の単行本を注文してしまいました。
以前、『アメリカの大学院で成功する方法 留学準備から就職まで』吉原真里、中公新書で、アメリカの文系大学院生は大量のレポートを求められるが、対象となる本を全部読むヒマはないため、書評ですませている部分がかなりある、というのを読んで「なるほど」と思ったことがあったのですが、そうした部分も含めて、もっと書評って見直されていいですよね。
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