『一六世紀文化革命 2』
『一六世紀文化革命 2』山本義隆、みすず書房
本文だけでも2巻で737頁を超える本となりましたが、実は、本人による素晴らしいダイジェストがあるんです。それは大佛次郎賞を受賞したときの記念講演で、テーマはズバリ「十六世紀文化革命」。
1巻は興奮しながら読んだのですが、2巻になるとさすがに繰り返しが多くなるといいますか、さらなるどんでん返しは期待でくなくなるのですが、それでも戦争が発展を促した機械学・力学、航海術と天文学の密接な関係、イングランドで芽生えたアングロサクソン的なプラグマチズム、そしてそれらが渾然一体となって発展を促した17世紀科学革命という道筋はしっかりと理解できました。
6章「軍事革命と機械学・力学の勃興」は期待を裏切りません。大砲の威力は、それまでの城壁都市の意味を失わせるとともに、スペインにはレコンキスタの勝利をもたらします(p.393)。そして重い大砲を素早く移動させるとともに、発射される砲弾を最も長く飛ばすための研究は機械学を発展させています。
山本さんは前著でもプトレマイオスがの地理学と天文学の否定が新たな知の地平を切り開いたと語っていますが、その先鞭をつけたひとりはニュールンベルグのレギオモンタナス。職人の多かったニュールンベルグを拠点に天文台を建設し、印刷工房まで自前で持ち、しかも地動説を受けいれていたようです(p.457)。
また、ポルトガルのエンリケによるアフリカ北岸セウタの攻略と略奪は、さらなる遠隔地へと向かわせますが、赤道に近くなると北極星は見えなくなり、新たな緯度決定の方法が求められるようになります(p.462)。そうなると、太陽を中心とした惑星運動の正しい理解が必要になってくるのですが、その時代に大活躍し、今でいえば自前の大型加速器をデンマーク国王に授けられたのがチコ・ブラーエでした。彼は観測精度の向上につとめ、まず観測機器の改良につとめるとともに、地道な定点観測を30年以上続け、自然科学の精度を高めていきますが、そこに流れているのは職人的な継続性の思想でした(p.492)。
こうして精度を高めることによって基礎的な物理学の発展は促されるのですが、そこに決定的な役割を果たしたのは、ヨーロッパの後進国であるイングランドだった、というのが8章「一六世紀後半のイングランド」です。アルマダとの戦闘に勝利した船乗りたちは、海上での船速測定法で簡便な方法を思いついたります。
そして「知は力なり」(Ipsa scientia potestas est)という言葉が雄弁に語るフランシス・ベーコンを生み出します。
6.軍事革命と機械学・力学の勃興
7.天文学・地理学と研究の組織化
8.一六世紀後半のイングランド
9.一六世紀ヨーロッパの言語革命
10.一六世紀文化革命と一七世紀科学革命
(以上2巻)
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