« IL CARBONAIONE 2003 | Main | 新宿中本4周年 »

March 15, 2007

『政治家の本棚』と従軍慰安婦問題

Sejika_no_hondana

 あまり時事ネタには反応しないようにしているのですが、「美しい国」の首相があまりにも情けないので、チラッと…。

 この問題については米下院外交委員会「アジア太平洋・地球環境小委員会」のファレオマバエンガ委員長による《旧日本軍が従軍慰安婦の動員を強制した具体的な証拠はないとした安倍首相の発言については「ばかげている」》という一言が全てを言い表しているように思います。

 慰安婦を強制的に連れて来たのかどうかなんていう些末なことが問題ではなく、20世紀という近代性が貫徹していなければならなかった時代に、しかも、アジアで唯一の先進国であると公言していたような国が、慰安所のような施設を誇り高い組織であるべき軍隊が自ら管理・運営していたということ自体が恥ずかしいことだったんだ、という視点がどうも、我らが「美しい国」の首相には欠けているんじゃないかと思います。しかも、こんな問題はどんなに弁解したところで、語るに落ちるに決まっているわけで、何いわれても「河野談話の通りです」とオウム返しに云っておけばすむのに、何を守りたいんだかわかりませんが、強制があったかどうかなんていうバカみたいな細かな論議を大国の首相が、真っ昼間から国会で答弁するなんざ、本当にみっともないというか恥ずかしい限りです。

 『宮澤喜一回顧録』岩波書店、2005の中で、印象的な一節がありました。それは敗戦後、米軍が来るというので大蔵省や閣議で対策を練るんですが、真っ先に論議したのが米軍が「軍票」を出すかどうかという問題、そして二番目が慰安婦対策なんですね。

 8/30にマッカーサーが厚木に着くんですが、そこに大蔵省の橋本龍伍官房課長が赴いて軍票を出すかどうか聞いたらしいんですな。そしたら出さない、と。橋本課長は「大臣、負けました」と語ったそうです(p.71)。日本最高の官僚組織である大蔵省は、この時点で日本軍は米軍に倫理的にも完敗したことを悟ったんでしょうね。

 そして次に閣議で考えたのが慰安婦対策。《そういうものを講ずる必要があるというになりました。料理店、飲料組合みたいな、そういう人たちが、大森に何かをつくるということがわりに早く決定されたんではなかったでしょうか。それはしかし、長くは続かなかったように思います。一つは、衛生の問題があったかもしれません。もう一つは、比較的彼らが軍紀厳正であったことがございます》(p.72)。

 貨幣主権の問題が片づいたら閣議でまっさきに議論したのが慰安婦の問題だというんですから、いかに、当時の日本人の思考に染みついていたいたかがわかりますよね。我らが「美しい国」の首相も、何回も書きますが誇り高い存在であるべきはずの軍隊自身が慰安所を持っていたこと自体に対しては、嫌悪感というかまったく疑問を持っていないみたいだから、強制があったかどうかというのが、さも重要な問題だと勘違いしているんでしょうね。まったく、非常識にもほどがあります。

 そして、軍票でアジアの民衆から財産を奪って物資を収奪した日本、慰安所を軍隊自らがつくって兵隊たちの性を処理させていた日本は、米軍もそうしたことをやるだろうと思ったら、まったく軍紀厳正であったことで二度敗れたわけです。その倫理的な敗北感を我らが「美しい国」の首相は忘れ去っているように思います。

 ではなぜ、旧日本軍は慰安所をつくることに疑問を感じなかったというか、つくる必要性を強く感じていたのでしょうか。個人が解決する問題として処理できなかったのでしょうか?

 網野善彦さんはこんなことを赤坂憲雄さん相手に語っています。《確かに、あらゆる戦争が男の軍隊によって行われている以上、その問題はつきまとうのですけれども、日本の軍隊の場合はやはり特異な点があると思います。日本の兵隊の外出時間は限定されていて、極めて短いですね、国内でも。兵営に帰る時間、帰営時間が決まっているわけで、国内でも、その間に性欲を処理しなければならない。だからコンドームを渡して、時間までに帰ってこいということになる。こんな軍隊は世界探してもまずないのではないでしょうか》《あらゆる面で兵士自身が奴隷的な状態に置かれているから、その性に対応する女性のほうも、それ以上に奴隷的な状態で組織せざるを得ないことになるわけです。慰安所の前に行列して兵士を並ばせたという話が出てきますが、こういう異様な状態は、日本の軍隊のあり方をもっと徹底して考えないと理解できないのではないでしょうか》(『民俗学と歴史学 網野善彦、アラン・コルバンとの対話』赤坂憲雄、藤原書店、2007、p.30)。

 『美しい国へ』文春新書を読んで、この人は純粋培養の保守オタクじゃないか、みたい印象を持ったのですが、それをサポートする塩崎官房長官は、中核派の社会科学研究部に所属していて、高校時代から都立新宿高校の全学ストを組織し、浪人時代には一緒にやっていた人が内ゲバ殺人で指名手配されたこともあるという経歴の持ち主なので、ちょうどバランスが取れているのかなとは思っていましたが(『政治家の本棚』朝日新聞社、2002、pp.364-368)、このままではなんかパッとしないまま二人とも「やっぱ若いんじゃダメだね」みたいで終わりそうで、まあ、それはいいかもしれないけど寂しい限りです。

|

« IL CARBONAIONE 2003 | Main | 新宿中本4周年 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/14267110

Listed below are links to weblogs that reference 『政治家の本棚』と従軍慰安婦問題:

« IL CARBONAIONE 2003 | Main | 新宿中本4周年 »