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February 08, 2007

『構造改革の真実』

Takenaka_heizo_nishi

『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』竹中平蔵、日本経済新聞社

 小泉内閣を描いた本はなぜ、こんなに面白いんでしょうか。スタートダッシで躓き、低迷する安倍政権に関しては何の興味もわかないのに。

 『チャンス』は文字も読めない元庭師がひょんなことから大統領候補にまでまつりあげられそうになる、という映画でした。そのラストは主人公チャンス・ガーディナーが水の上を歩くシーンを水面ギリギリの低い位置から撮ったショットでした。聖書のイエスが水の上を歩いたという伝説を踏まえるとともに、手に持っている傘で左右の深さを測るシーンも撮ることで、たまたまチャンスは浅い部分を偶然歩いていたのだ、ということを暗示しています。ぼくは小泉首相の最大のモチベーションは反旧田中派であり、旧田中派の権力を生み出していた郵政、道路公団、公共投資といったものを打ち壊す過程が、たまたま日本の抱えていた課題の克服につながったのではないか、という思いがどうしても抜けないものですから、小泉首相の歩みを『チャンス』のラストシーンにダブらせてしまいますが、そんなことはさておき…。

 『官邸主導 小泉純一郎の革命』清水真人で、ポスト小泉で最も心配なのは官邸主導の基盤となる経済財政諮問会議を方向付けていったポスト竹中の存在だ、ということが書いてありましたが、何も実質的な仕事をせずに終わった橋本政権が唯一残した官邸主導の道具を使いこなしたのは、これまでのところ竹中平蔵大臣だけだということは少なくとも云えると思います。

 繰り返し語っているのは《戦略は細部に宿る》ということ。つまり政策が狙い通りの効果を上げるには細部までキッチリ把握し、工程管理をキチンと行い、官僚の霞ヶ関文学による政策のなし崩しを許さないという姿勢。例えば、最後の方で書かれている政府系金融機関の民営化問題に関して、予算審議が始まるという最も忙しい時期に行なわれた法案作成の基本方針と概要の閣議決定文書に「政府系金融機関を完全民営化」ではなく「完全に民営化」すると書き換えられたという"事件"があったそうです(p.306-)。これはどういうことかというと、完全民営化は政府の保有する株式を市場に100%放出する完全民営化ですが、そこに「に」が入ると1)特殊会社2)民間法人3)完全民営化のどれかを"完全に"実施すればいいことになり、各省庁がそれぞれ系統別に持つ天下りポストの確保は、株式を保有し続けることで可能になるというのです。結局、竹中大臣は決済文書にサインを拒否することによって、行革事務局の狙いを阻止したとのことですが、いやはや、というエピソードです。

 この本は大きく分けて不良債権処理、郵政民営化、経済財政諮問会議に関して書かれています。

 まず不良債権処理を進めるために各銀行に対して資産査定の厳格化を求め、その過程でりそな銀行に公的資金を注入し、足利銀行は国営化します。面白いのはこうした決定の際に、日本銀行への情報伝達を意識的に遅らせたこと。政策責任を問われる金融庁に比べて、直接責任を負う必要のない日本銀行には《「権限が大きく責任が小さい場合、情報管理が甘くなる」》(p.115)という体質があるそうです。

 『小泉官邸秘録』飯島勲では《防衛庁には、いわゆる背広組の内局と制服組の陸・海・空の自衛隊という異なる組織原理を有する複数のグループが存在し、なかなか考え方が一致しない。そのため、お互いに自分に有利な情報をリークしようとする傾向がある、しかし、実力組織を預かる危機管理官庁なのに、これだけ情報管理が甘いのでは軍事作戦などとてもおぼつかないし、同盟国の軍隊からも信頼されないだろう》《我が国の危機管理上、まことに嘆かわしいことだと思う》と書かれていたのが印象に残っていますが、日銀に関するこうした批判も重要だと思います。

 とにかく株価が7000円台に低迷するなど厳しい経済情勢の中で、最初の外科手術を行なったことは本人も最初に書いているとおり、後の自立的回復の道筋をつけたことで大きく評価されるべきだと思います。

 郵政民営化については、個人的にもナニするところでしたので、特に新しい情報はありませんでしたが、思わず頷いたのが、《郵政改革の具体論を語れる専門家は日本中探してもほとんどいない》(p.154)ということ。郵政省幹部は昔から「わが社」と郵政省のことを呼んでいましたが、あまりにも規模が大きく、物流、銀行、保険という三つの業態を束ねた組織であるため、社業全般について精通している人物が中から育たなかったのではないかと思っていました。

 国鉄改革はある意味、関連事業などはありましたが、基本的には職員局がやりたかった大合理化を政治の力で強行すればすむ話でしたし、運転局がしっかりしていたので、日常の運行業務の心配はありませんでした。そして各部門にOBや旧運輸省の役人、ジャーナリズムの世界にも全体像と方向性を語れる人間は豊富にいました。しかし、確かに郵政に関してはいなかったように感じます。テレビで郵政民営化のことを語っているのは政治家がほとんでした。専門家が極端に少ないというより、いなかったというのは確かだったと思います。そのため、法案の骨子は竹中チームがイチからつくったそうですが、そのために、どう考えてもスジ悪の部分が残ったと思います。

 最後に竹中バッシングについて。様々な竹中バッシングに関しては全て全面否定してみせていますが、唯一、触れられていないのが、住民税の問題。慶大助教授になってから93年、94年、95年、96年の4年間にわたって「1月1日」は米国のウェストチェスター郡に保有している住居に住民票を移していたという問題です。

 ぼく自身もオフショアの勉強をしていますので、毎年1月1日の時点で住民登録している住民に対して自治体が徴収することが前提となっていることを逆手にとって、その日だけ住民票を外国に移すと結果的に住民税の請求はなされない、ということはどこかで聞いた記憶があります。だから個人的には批判できませんが、果たして「国民に痛みを求める資格があったのか」ということに関しては、功多しといえども、どこかで明らかにしてほしかったと思います(金融改革の盟友であった木村剛氏に関しても)。

序章 改革の日々が始まった
第1章 小泉内閣という“奇跡”
第2章 金融改革の真実―“不良債権”という重荷
第3章 郵政民営化の真実―改革本丸の攻防
第4章 経済財政諮問会議の真実―政策プロセスはどう変わったか
終章 日本経済二つの道

竹中平蔵氏の住民税

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