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January 14, 2007

『小泉官邸秘録』

Koizumi_kantei_hiroku

『小泉官邸秘録』飯島勲、日本経済新聞社

 論功行賞の大臣人事で外を固め、内々は仲良し『チーム安倍』でぬくぬくとしているうちに支持率は長期低迷状態に陥っている安倍内閣の迷走の理由はなんなんだろうな、と考えつつこの本を読んでいるうち、ひとつハタと気付いたところがあります。

 飯島氏を除くと小泉内閣で秘書官を務めたのは丹呉泰健氏(大蔵省出身)、別所浩郎氏(外務省)、岡田秀一氏(通産省出身)、小野次郎氏(警察庁出身)の四氏。いずれもほぼ小泉首相の任期中いっぱいずっと務めあげ、飯島氏が《官僚機構というのは「使いこなす」ものなのである》(p.23)としているのが印象的です。最後の奥付の対抗ページには飯島氏とこうした秘書官、参事官の経歴と顔写真が載っているのですが、こうしたチーム小泉政権が影で支えてきたのだ、という自負心の現れだと思います。このほか、各省庁からは秘書官よりも4~5年、年次の若い参事官を置いたほか、総理補佐官として合計5名の官僚OBなどを指名されています(元外務省の岡本氏、元建設事務次官の牧野徹氏、元農水事務次官の渡辺好明氏など)。

 一方「チーム安倍」は小池百合子(国家安全保障)、世耕弘成(広報)、根本匠(経済財政)、山谷えり子の各国会議員などの特命を担当する5人の補佐官が中心で、しかも、報道を見る限りは、個人的に親しい政治家仲間たちがやりたい方向にバラバラに向かっていて、果たして役人を使いこなしているのか、という印象があります。しかも、様々な問題で危機管理ができているのかな、とシロート目にも見えてしまうところがツライところ(大臣同伴でない限り官僚に会わないというのは本当でしょうかねw)。まあ、印象批評の域はでませんが、個人的にそう感じてしまっていることは事実なので致し方ありません。今日も朝、妙に早く起きてしまったのでテレビをつけたら瀬戸内寂聴さんが、安倍首相の教育論について「ご自分にお子さんがいらっしゃらないから、どうも理想主義的に聞こえるわね」と豪快なことを話していて、「美しい国」うんぬんのフレーズも含めて、どうも、そんな感じナメられてしまっているような気がします。もっともご本人は「軽く見られるのはケンカの時に有利だから、自分の長所だ」とどこかで語っていたみたいな話も、新聞紙上で読んだ記憶はあるのですがね。

 ともかく小泉首相には政治家同士の貸し借りや選挙での貸し借りもあまりないと飯島秘書が旧著『代議士秘書―永田町、笑っちゃうけどホントの話』講談社文庫で書いた通りなのか、あまりドロドロした部分がないようで、首相退任後、半年あまりでベストセラーを秘書が書いてしまうというのも前代未聞というか、たいしたもんです。

 最初の方で、さかんに書かれているのが外務省批判。《外務省については、もう一つ言っておきたいことがある。それは「大使」の人事についである》として、外務官僚主導で任国の言葉もしゃべれない人物を選ぶよりも、例えば塩野七生女史をイタリア大使に任じ、それをプロの職業外交官が支えるほうがいい、とまで書くし(pp.42-)、外交日程や随行員までも事務局ペースで決めていたと批判します。また、北朝鮮の不審船引き上げに関して、外務省ルートでは中国が反発するということで調整が進まなかったことで、直接、中国側と話し合った結果、アッサリOKが出てしまい《この数ヶ月間、中国側と本当に率直な意見交換がなされていたのか、と強い疑念を感じた》(p.146)なんてこともあったようです。

 また小泉首相の手法が「丸投げ」と批判されたことに関しては《総論でタガをはめ、大臣を押さえ、官僚組織のトップを押さえることで各論の「骨抜き」「逃げ」を許さない》手法であり、進行管理は小泉首相がキチッとやっていた(p.62)と反論しているのは秘書のつとめでしょうかね。

 印象的だったのは日本医師会の坪井会長との医療報酬のマイナス改定をめぐるやりとり。坪井会長というのは医者の家柄ではなく、国立がんセンターでのつとめた後、タイにも派遣されたという開業医の集団である医師会では極めて異色の経歴の持ち主だというのですが、マイナス査定に反発する医師会を押さえるためにサシで会った時、坪井氏の方から《「自分は今の医療がいいとは少しも思っていない。変えなければならない」「財政上の要請でマイナス改定したければ老人医療費を見直せばよい。出血は止めなければならない」》(p.88)と言ってきたというです。こうした"金属疲労をおこしている制度を見直さなければならない"という感触を個々の業界のリーダー層もちゃんと持っていたことは、小泉構造改革路線が、あれほど保守層にも広く受けいれられた背景にはあるのかな、と思わされました。

 外務省に対するあけすけな批判とともに、ここまで書くのか!と思ったのが防衛庁批判。《防衛庁には、いわゆる背広組の内局と制服組の陸・海・空の自衛隊という異なる組織原理を有する複数のグループが存在し、なかなか考え方が一致しない。そのため、お互いに自分に有利な情報をリークしようとする傾向がある、しかし、実力組織を預かる危機管理官庁なのに、これだけ情報管理が甘いのでは軍事作戦などとてもおぼつかないし、同盟国の軍隊からも信頼されないだろう》とまで書くんですな(p.129)。この後も「用意周到・頑迷固陋」 の陸上自衛隊、「伝統墨守・唯我独尊」の海上自衛隊、「勇猛果敢・支離滅裂」の航空自衛隊がそれぞれ自分に有利な情報をリークしていたことを細かく書かれると、ぼくでさえも《我が国の危機管理上、まことに嘆かわしいことだと思う》と感じます。なにしろ、アフガン沖に派遣される艦艇の隻数までも新聞にスッパ抜かれたそうですから(p.134)。

 陸上自衛隊のイラク派遣に関して《中東の国々というのは言葉は悪いが「不労所得」で生きている国家群であり、指導者の役割というのはその富を国民に分配すること》だとして、米軍の侵攻にほとんど抵抗らしきものがなかったのも、軍人に対する《給料が2ヶ月ぐらい遅配していた》からだというのは、率直すぎるにしても、ひとつの見方なのかな、と感じましたね。失業率が異常に高くてもやっていけているのは、指導者たちが富の再配分をやっているからだ、と。日本の陸自は雇用を満遍なく生み出すことに重点を置いたというのですが《こうした国を民主主義国家、資本(自由)主義国家に変えて、納税の義務を国民に負わせるまでには三十年か四十年はかかるであろう》(p.174)とまで書いています。

 厚生大臣、郵政大臣の頃からの主張を事細かにあげて「小泉は変わっていない」と主張するあたりはちょっと退屈ですし、メモから抜き書きしたような部分もあったように感じますが『代議士秘書―永田町、笑っちゃうけどホントの話』でも感じた文章のすまさ、スピード感は今回も感じました。

 また、最初の靖国参拝の時、8月15日を避けたことに関して、やめるように説得していた福田官房長官が、あらかじめ福田氏が用意していた談話を読み上げた(p.315)と最後の方でチラッと書いているのは、確執がうかがえて興味深かったですね。

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