『人はなぜ太るのか 肥満を科学する』
『人はなぜ太るのか 肥満を科学する』岡田正彦、岩波新書
ダイエット本、時々、気になって本屋さんで手にとって読んでしまったりします。寄る年波にはあらがえず、この10年間で、BMIは21から24まで上昇してしまいました。「なんかなぁ」と思うこともあり、発作的に何かを始めようとすることもあるのですが、どうも、長続きしません。
で、ちゃんとしたお医者さんが岩波新書で書いているんなら…ということでじつくり読んでみたら、なんか、解放された気分。
《・肥満が原因でおこる病気にかかったことがない
・BMIが25以下
・血圧が高くない
・血糖値が高くない
・コレストロール値が高くない
・ひざや腰などが痛くない》
という条件をすべて満たす人は無理にやせなくても、いい、とハッキリ書いているのですから(p.201)。なんか肩の荷がすっかりおろされたような気分。同じような「やせなきゃ」強迫神経症に陥っているような方がいらしたら、ぜひ、一読をお勧めします。
三大栄養素のうち、タンパク質は余剰分が体外に排出されるから肥満の原因にはならない(だけど肉ばかり食べるダイエットは栄養素が偏り、コレステロール値が上昇するので危険とp.151に書いてます)。炭水化物のもとは糖分で、余剰糖分は脂肪酸に変化して体内に蓄積されるので肥満の原因となる。脂肪のもとは脂肪酸で、余剰の脂肪酸は中性脂肪として蓄積されるためで肥満の原因となるーというまとめはスッキリしています(p.24)。また、オレイン酸だ、DHAだ、EPAだと、いろいろカラダにいいと喧伝されている脂肪酸については「あまりに複雑すぎて現代医学でもよくわかっていないのである。俗説にはあまり惑わされないようにした方がよいだろう」(p.28)というのもありがたいお達し。
また、肥満に関する遺伝子研究からうまれた最大の発見は、レプチンという物質の存在であり、将来、夢のやせ薬が誕生するかもしれない、なんてありがたい話も聞かせてくれる(p.49-)。どうも「人の体は基本的に太るようにできていて、レプチンが必死に(?)くいとめている」らしいんです(p.51)。
また、メタボリックシンドロームについて日本では、女性でウエストが90cm以上、男性で85cm以上などの基準について動脈硬化学会など8学会が統一的な見解を発表したんですが、どうも、この基準は諸外国の定義とかけ離れすぎていて、しかも厳しすぎるらしいんですな(p.93)。だってアメリカの場合、ウエストサイズは男性が102cm以上なんですもん。なんか、アルコール依存症に関するスクリーニングテストでも、日本のは厳しすぎる感じがするんですが、どんなもんでしょ。「あんまり甘い基準を発表すると、大丈夫だと云われたから飲んだり食べたりしたので病気になった、どうしてくれる!と文句いわれるのはイヤだもんな…」ということで、ちょっと厳しくするんでしょうかね、日本人の先生方は。
以下は箇条書きみたいに。
・個人的に無知だったのかもしれませんが、人間が一生の間に自分でつくれるシンシュリンの量というのは決まっていて、それを使い果たしてしまうと糖尿病になる、というのは知りませんでした。
・ジョギングはそれを考案したジム・フィクス自身もジョギングの最中に心臓麻痺で死んでしまったということもあるし、ひざなんかの軟骨は再生しないので、専用シューズを履いて、しかも万が一の時にも安心なように日中、人目のつくところでやった方がいい、というのも、乾きすぎてはいるけど、適切なアドバイスだと感じます(p.125-)。つか、これを読んでしまったらジョギングなんてやろうとは思わないけどww。
・牛乳は赤ちゃんと子供にとっては最適の食品だが《脂肪量がきわめて多いので大人にとっては間違いなく肥満の原因となる》(p.151)というのも知らなかったです。ぼくは子供の頃、脱脂粉乳が嫌いで、それで牛乳もあまり好きではなかったのですが、友人の一人に、学生時代と比べてほぼ体重が二倍になってしまった牛乳好きのヤツがいて、今度会ったら、「牛乳やめろ」とアドバイスしてやろう、と思います。
・やせるハーブとして知られる、セント・ジョーンズ・ワート(西洋弟切草)は国によっては毒草に区分され、日光過敏症や流産の原因にもなるっつうんですから、民間療法っては恐ろしいですな(p.171)。
とにかく、もう、個人的にはBMIが26になるまでは、ダイエットのことなんか考えないで生きていこうと思いました。
■目次
はじめに
プロローグ なぜやせられないのか
―肥満をめぐる疑問あれこれ
第1章 肥満の仕組み
1 栄養のもと
カロリーで比較/遺伝子がつくる体の仕組み/たんぱく質は残らない/消化酵素もたんぱく質/炭水化物のもとは糖分/ぶどう糖はエネルギーに/血糖値を保つ/やはり脂肪が問題/中性脂肪のパワー/三大栄養素のまとめ
2 肥満と食事
脂肪酸の功罪/過酸化/脂肪のたまる場所/血糖値を上げない食品/太る食品とは? /男女の違い/肥満の秘密/ハンバーガーは太るか
3 肥満は遺伝するか
二五個の卵/太り方にも個人差/極端な人々/日本人に多いタイプ/謎の物質レプチン/夢のやせ薬か/摂食中枢/もう一つの謎の物質
第2章 肥満をはかる
1 理想の体重とは?
理想的でない理想体重/BMI/BMIの理想値とは?/さまざまな指標/体脂肪率とは?/グッドアイデア/あてにならない体脂肪率/ヒップとウエスト/ハイテク肥満指数/超音波で肥満診断/正しい体重のはかり方
2 肥満の影響をはかる
自律神経の働き/血圧は家ではかろう/心臓の余裕/血管にかかるストレス/心臓の酸素不足/血管の表面をみる/血管の中をのぞく
第3章 肥満はなぜ健康に悪いか
1 メタボリックシンドロームとは?
危険な因子/あなどれない腹部の脂肪/日本の基準/インシュリン抵抗性/因果関係の証明は難しい
2 肥満によっておこる病気
糖尿病の二つのタイプ/子供の肥満と糖尿病/糖尿病の大規模調査/動脈硬化症/肥満による心不全は女性に多い/肥満は原因か結果か/心電図でわかる心臓の負担/急にふえた脂肪肝/息がとまる話/再生しない軟骨/骨をおる/長生きと肥満の関係/意外な結果/ヒップ周囲の測定は意味なし
第4章 健康的にやせるには?
1 運動療法
歩くスピード/運動強度/安全な運動の仕方/体力の限界を知る/趣味と運動の違い/ジョギングの極意/無難な水泳/運動だけではやせない/たるんだお腹/運動処方箋/注意すべきこと/健康チェック
2 食事療法
食事の処方箋/一日の摂取量の目安/パンとご飯/間食/お酒の飲み方/脂肪の多い食品とは?/コレステロールをどう考えるか/牛乳の功罪/水で太る/ダイエットの効果/成功の秘訣/リバウンド/やせすぎ/難しい治療/食べずにはいられない/やせるポイント
3 医学にたよる
ダイエット・ピル/食欲をおとす薬/かぜ薬でもやせるが……/あのアスピリンも/中国製やせ/危ないハーブ/甲状腺ホルモン/成長ホルモン/黄体ホルモン/さまざまな発想/ダイエット・サプリ/これから期待される薬/薬を使った方が良い場合/日本で売られている食欲抑制剤/手術でやせる/民間療法あれこれ/正しくやせるための総合作戦
エピローグ―ちょっぴりやせたい人へのアドバイス
参考文献
あとがき
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
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