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December 28, 2006

『歌右衛門合わせ鏡』

Utaemon_awasekagami

『歌右衛門合わせ鏡』関容子、文藝春秋

 年末年始なので、好きなだけで本を読んだり、DVDを観ることにしているのですが、なんか、最近、大成駒、六世中村歌右衛門さんを想い出すことが多く、これで二冊目。『歌右衛門 名残りの花』をパラパラめくりながら、同じ渡辺保さんの『歌右衛門伝説』も読んでいます。ぼくが知っているのはどうしても晩年の歌右衛門さんなのですが、若い頃の話もだんだんと知りたくなって、いろいろ本を探しています。

 あ、それと七宝焼きのメダルをわざわざつくってあげたリンチンチンと一緒に写っている写真はどこで見たんだっけな…とずっと記憶をたぐっていたのですが、どうも『広告批評の別冊11 淀川長治の遺言』の中で淀川さんと対談している中じゃなかったのかな、と思いだしたので、取り寄せている最中です。

 『歌右衛門合わせ鏡』でまず感動的なのは、歌舞伎座をめぐってから納骨という日。なぜか前日に舞踏会があって、娘道成寺の舞台がつくられていたので、歌舞伎座はそれをそのまま残すことを決定。支配人は大向こう会の人も事情をあかさずに呼んでいて、道成寺の舞台に梅玉、松江兄弟に守られたお骨がのぼると、三階から「成駒屋!」「大成駒!」「日本一!」の声がかかったそうです。海外出張から帰って一部始終を聞かされた永山会長が語ったように《「まったくね、そういういい巡り合わせの人だったんだよ」》(p.19)ということなんでしょう。

 それと有名な『籠釣瓶(かごのつるべ)』の八ツ橋が花道で笑う所作について。心理的な描写を語った後《それとあとはお客へのサービスがあるのよね。だっていくら豪華な衣装で花魁道中で出てきても、何も芝居しないで花道をただ引っこんでったんじゃあ、物足りないじゃありませんか》(p.59)。いいですねぇ。こういう御見物への配慮。

 晩年の当たり役の建礼門院について尼さんの扮装がいかに美しいかを語り《「まぁね、尼さんは得だわね。顔の輪郭がスッポリかくれるから」》(p.92)なんていう云い方も、いかにも女形の乾いた感想だという気がしました。バーグマンだって(『聖メリーの鐘』)、デボラ・カー(『白い砂』『黒水仙』)だって、ヘップバーンだって(『尼僧物語』)、一番美しかったのは尼さんの姿かもしれません。あの野暮ったいジュリー・アンドリュースだって尼さん姿の時はキレイだったし(『サウンド・オブ・ミュージック』)。

 歌右衛門さんは16歳の時に兄の福助(実は実父らしい)、23歳の時に先代の歌右衛門(そうなると、戸籍上は父親ですが実は祖父)を亡くすのですが《「そうするとそれまでチヤホヤされていたのが途端にソッポ向かれたり、役がつかなかったりしたそうです」》(p.114)という梅玉さんの回想はさもありなん、という気がしました。だから、歌右衛門さんは、妙に政治的に動いて早くから芸術院会員と人間国宝という"二冠王"を獲って、歌舞伎界に君臨する"女帝"になったんだと思います。

 養子にもらった梅玉さんは結婚して子供も授かったのですが、大成駒の初孫なぎさちゃんの可愛がりようはお嫁さんからみると《娘がスキーに行きたいと言いますでしょ。ああ行っといで、って、法外なお小遣いを与えて、そのあとで私には、まぁお前さんはよく平気でそんな危険なことろへなぎさをやれるものだねぇ、まるで中将姫を雪責めにする継母さんのようだねぇ、なんて皮肉をおっしゃるの」「なぎさが一緒に食事をするとなる、すき焼きに松茸をどっさり入れて、さあたんとお上がり、どうせマミィは買ってくれやしないだろ?なんて」》(p.119)感じだったらしいww。

 それと十八代目勘三郎さんの話はやっぱり面白い。ぼくは勘九郎さんの時から、ずっといろいろ教わってきたみたいな感じを勝手に思っているのですが、今回もいろいろ教わりました。ニューヨークのオペラハウスでの公演の際、鏡の位置が高いので歌右衛門さんはテーブルを置いてその上に座布団を何枚も重ねて化粧(かお)をつくっていたらしんですが、そこに当時の勘九郎さんが入ると、成駒屋はいきなり「おう、つるは何百何十ドル持ってきた?」と『四千両』の牢名主みたい問いかけたらしいんですな。つまり、大成駒は牢名主で、勘九郎さんは新入りの囚人で、挨拶のために隠し持ってる金品が必要だった、と。それと初代辰之助が南座で楽屋風呂に入っていると、成駒屋が「冷えもんで~す」って入ってきたのにヒントを得て、新派の芝居に出た時に偲んでアドリブに使ったとか。「いつか、何かの拍子におじさんと二人っきりになったら、哲ちゃん、あんた、芝居はほんとうに大事にしてちょうだいね、おろそかにしないようにしてね、って言われた。これはぼく守ってますよ。これだけはぼく何があっても守ってる。この点だけはうちの親父に勝ってるね。親父はたまに投げたからね」なんてのもいい話。

 それと早稲田の学生アルバイトを可愛がったとか、白鳳の奥さんである正子さんの実は「私の一番のライバルは歌右衛門さんだったの(笑)わかる?」みたいな話も、ちゃんと出てきたのはよかったと思いますね。

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