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November 21, 2006

『硫黄島の星条旗』

Ioujima

『硫黄島の星条旗』ジェイムズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ(著)、島田三蔵(訳)

 クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』の原作。東京裁判史観によりかかって白人のドイツ人は綺麗に戦ったが、米兵や南京の市民に対する残虐行為を強調して黄色人種の日本人の戦いは汚いということを印象付ける、みたいな部分に反応するようなヒトもいるかもしれないけど、もちろん現存する最も偉大な映画監督であるクリント・イーストウッドがこれをもとに二部作をつくろうとしたのは、そんな薄っぺらな政治的見解を表わしたかったからではなく、原作に力があったからです。

 愛する息子、恋人が戦地に送られるということは家族にとってどういうことなのか。その死をどうやって受け入れたのか、あるいは乗りこえられなかったのか。さらには、英雄となってHome Comingしても精神医学の助けを借りられなかった当時、家族たちも毎晩、うなされ、叫び、すすりなく夫や息子をサポートしなければなりませんでした。そうしたサポートをどう家族が続けたのか、あるいはサポートしきれなかったのか。とにかく、そうしたことを描いた作品です。しかも、その物語を書いたのが硫黄島で星条旗を掲げた6人のうちの1人の息子で、しかも日本に長年滞在して上智大学で(カトリック系だから)太平洋戦争の歴史を学んでいたというのですから、奇跡的な本だといえるかもしれません。

 硫黄島で星条旗を掲げる兵士たちの写真は、史上、最も有名な戦争写真のひとつだといえると思います。当時、日本への上陸作戦(ダウンフォール作戦)に向けて資金の準備をしていた合衆国政府は、生き残った国旗掲揚者を戦地から呼び戻し、戦時国債を売るための愛国的な宣伝活動に使います。《一九四〇年代のアメリカの民主主義の概念では、戦争の費用は通常の連邦政府の予算外のものだと考えられていた》《戦時国債は、この自発的資金供給の主要な方法で、本来市民による政府への融資だった》(p.434)というのは知りませんでしたね。

 あと、マッカーサーの自叙伝を読んだ時、一番驚いたのが、日本軍がパールハーバーのあとも無敵の進軍を続け、オーストラリア占領もやむなしとされていたということでしたが、この本でも《バターンの守備兵の運命がきわまったことに気づいたローズヴェルト大統領は、第一次大戦でもっとも多くの勲章を与えられた軍人であるマッカーサーに、夜陰に乗じて船でオーストラリアに逃げるよう命令》(p.108)した以降、42年8月に始まったガダルカナルで初めての勝利を得て、アメリカ側はようやく一息ついたという状況も改めて再確認できました。

 そして、それは《紳士協定で、1日の戦闘行為は毎日午後五時に中止して、医師が負傷者の看護ができるよう両軍は射撃を差し控えた》というドイツ軍の北アフリカ戦線との戦いとはまるでちがう、軍部の指導者によって堕落させられた武士道に洗脳された残虐な日本兵との長い戦いとなるのでした(p.115-)。

ここらあたり、南京大虐殺の数字なども含めてやや正確性に欠ける記述ではないかと思うのですが、後に《日本の文化に対するアメリカ人の鈍感さとフランクリン・デラノー・ローズヴェルトのオイル・ライン切断で-産業面で陸にあがった鯨状態になった-日本は自衛のためパール・ハーバーを攻撃せざるをえなかった》(p.566)とまで硫黄島の国旗掲揚者である父親の前で語るようになった筆者ですから、バランスはとれていると思います。その後、筆者は南京大虐殺や極東軍事裁判の資料などで、そうした一方的な日本擁護の立場からポジションを変えていくのですが《わたしは日本に住んで、仕事をし、何人もの日本人と暖かい友情に結ばれている。わたしは、日本とその国民に対して持っている深い尊敬の念をそこなうようなことはなにも書いてない》(p.581)と云えると思います。

 それにしても、1915年にイギリス軍が先導する連合軍が海上の艦艇からトルコのトリポリに上陸を敢行し、大失敗に終わった後、上陸戦は被害が甚大で不可能といわれたのにもかかわらず、対日戦争を頭の隅に置いて、上陸作戦への準備を怠らなかった海兵隊という組織はすごいと思いましたね。こんなの相手にしちゃ負けるわな、と。

 そして硫黄島占領作戦は決行されるのですが、その担い手は弾丸の雨の中を走る生身の海兵隊員です。『プライベート・ライアン』でも描かれた恐怖の上陸作戦の様子は、クリント・イーストウッド監督もやや抑えた調子ながら再現しています。あんなことをいくら命令といえどもさせられちゃたまらんだろうな、と本当にぞっとします。水木しげるさんの戦争マンガで、バンザイ突撃をさらせれる日本兵が「女郎に売られた方がマシだ」とつぶやくシーンがあるのですが、それよりもヒドイ感じ。

 そして衛生兵(Corpsman、コーマン)の精神的苦痛が突出していたかもしれないということは、はじめてこの本とイーストウッド監督の映画でぼくみたいな素人にも理解できるようになったのではないでしょうか。それは筆者が国旗掲揚者のひとりとなった衛生兵の息子であるからなのですが、見当違いな自責の念とPTSDで悩み、しかも精神医学の助けを得られなかった時代《吹き飛ばされた頭から切断された腕へととんでいき》最後は手の中で死んでいく多くの兵士たちを見届けなければならなかった衛生兵たちは、そうした記憶によって夜を支配されていたんですね。ひどい話です。

 映画も見ましたんで、後で書きます。

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