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November 22, 2006

『父親たちの星条旗』

Flags_of_farthers

『父親たちの星条旗』クリント・イーストウッド監督

原作を読んでから観た映画で、これほど感動した作品はこれまでなかったですね。あえて直前に読んでから観に行ったのは、クリント・イーストウッド監督の力量を信頼していたからです。そして、それは裏切られることはありませんでした。ややもすれば父親だけがイイ人として描かれすぎている原作の欠点を補い、本当に原作者が伝えたかったであろうメッセージを、映画においては「映像で語り得ないものは沈黙する」というストイックな倫理を貫いて理解させるという素晴らしい作品に仕上がっていました。

 クリント・イーストウッド監督は印象的な俯瞰シーンから始まる作品を多く撮っています。処女作の『恐怖のメロディ』からそうでした。今回も公式HPが印象的な硫黄島の全景をあしらっていましたので、てっきりそのシーンから入るのかと思っていたら、国旗掲揚者となった主人公であるジョン・ブラッドリーが老人となりながらも夜な夜な"Iggy!"とうなされているというシーンから始まります。

 あ、イーストウッド監督は『市民ケーン』をやるんだ、と思いましたね。"Iggy!"は"Rose Bud"なんですね。しかし、ポール・ハギスとウィリアム・ブロイルズ・Jrの脚本は、『市民ケーン』みたいに過去と現実をわざとグチャグチャにつなぐようにはつくっていません。

 過去と現在を結ぶ時には、衛生兵ジョン・ブラッドリーの戦友であったラルフ・イグナトースキー(ポーランド人いじめによく耐えた彼のあだ名がIggy)を探す自分自身の"Iggy!"という声、そして砲弾の炸裂する音と帰国した国旗掲揚者を英雄として迎える花火の音の交叉、それに地獄となった硫黄島で撃たれた兵士が衛生兵である自分を呼ぶ"Corpsman!(コーマン!)"という声が必ずキッカケとなります。わかりやすい。でも、観客に媚びすぎてはいない。しかも効率的にストーリーを進めるこの3つの音で現在のアメリカ、硫黄島での戦闘、ヒーローとして強制帰国させられた国旗掲揚者たちが戦時国債を売るためのキャンペーンにかり出されて茶番を演じさせられている時という3つの時代を自由自在に往き来させます。これだけ大量の出演者がいて、物語も複雑なのに、観ている者をまったく混乱させない手腕はたいしたものです。この語り口の上手さはまさに名人芸ですね。

 国旗掲揚者は6人なのですが、写真が大反響を呼んで「勝利のシンボルとして写っている者たちを帰国させろ」という命令が下った時点で、すでに3人が戦死、ひとりが負傷していたということからも、いかにすさまじい戦闘が行われていたかというがわかると思うのですが、そうした激しい戦闘をあざ笑うかのように、新聞王ハーストはその名もソルジャーフィールドと名づけたスタジアムに、すり鉢山のハリボテをつくりあげ、生き残った3人に国旗を掲揚させるショーを企画するんです。

 この最悪のショーはハースト系の新聞社が企画したということは原作に書いてあったことなのですが(『硫黄島の星条旗』 p.472)、原作のここを読んだ時にイーストウッド監督は「映画の構成は『市民ケーン』でいくか」と決意したのかもしれません。なにしろ『市民ケーン』はウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルに描いた作品なのですから。それにしても、ひどいことをやらせるもんです。

 生き残った3人のうち、唯一のネイティブ・アメリカンだったアイラ・ヘイズは最初、拒否しますが、財務長官らに「戦時国債が売れずに硫黄島に物資が届かなくなってもいいのかインディアン!」みたいなことを云われて脅され、結局はやらされるハメに。しかし、やがて酒におぼれていきます。

 褪色させたカラーを完璧にコントロールした撮影のトム・スターンも見事。

 「ヒーローは国家によってつくられた偶像。人々を欺き、ヒーローとされた人間をも苦しめる。本当のヒーローは戦地から帰ってこられなかった男たちだ」というややもすると当たり前すぎるように感じるメッセージが、しかし最終的には力強く伝わるクリント・イーストウッド監督の力量をみせつけられた作品でした。

 この後に公開される『硫黄島からの手紙』も観に行きます。

 それと『ハートブレイク・リッジ』もそうでしたが、帰還シーンは本当に感動的です。たんたんとエモーショナルに撮る。クリント・イーストウッド監督は本当に上手い監督でもあります。

 しかし『ハートブレイク・リッジ』と違うのは、出迎えた女性の服。『ハートブレイク・リッジ』ではイーストウッド自ら演じるハイウェイ軍曹が帰還したシーンで、劇中、一生懸命よりを戻そうとして戻せなかった元妻マーシャ・メイスンが真っ白な服を着て出迎えてハッピーエンドとなります。しかし、『父親たちの星条旗』で女性たちが着ているのはもっと地味な茶色い服でした。

 映画の文法からして、男たちの帰還を待つ女性は白いものを着ていなければなりません。例えば西部劇で帰還したヒーローを待つのは真っ白な大きなエプロンを身につけた妻であり母です。つまり、『父親たちの星条旗』でヒーローに祭り上げられた3人の国旗掲揚者たちにとって、帰還は救いではなかったんですね。そのことを出迎えた女性の服で直感的にわからせてくれる。こういう効率的でしかも視覚的に理解させる語り口。素晴らしいと思います。

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Comments

プラス、プロデュースがスピルバーグらしく演出がいかにもっつー場面もあったのぉ。
戦場とソルジャーフィールドの交錯など、シンドラーの例のシャワーのシーンと同じで
スピルバーグ・ザ・ジョーズの面目躍如。
ワシも「硫黄島からの手紙」は行きますがね。

Posted by: ken | November 22, 2006 at 11:15 PM

原作もぜひ!

Posted by: pata | November 23, 2006 at 07:09 AM

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