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October 07, 2006

『ティンブクトゥ』

Timbuktu_j

『ティンブクトゥ』ポール・オースター著、柴田元幸訳、新潮社

 主人公である犬、Mr. Bonesは主人であるWilly G. Christmasが死期を悟ったことから、ニューヨークからボルチモアまで歩いてやってきます。探しているのはWillyに作家になるようすすめてくれた高校時代の英語教師Mrs.Swanson。Willyは、飼い犬と自筆の原稿を引き取ってほしいと頼みにやってきたのですが、コロンビア大学に推薦してもらったにもかかわらず、ドラッグに溺れて退学、入院生活をした後は連絡が途絶えているために、見つかりません。

 喘息持ちのWillyは雨の降るなか、ついにある建物の前で動けなくなるのですが、その建物こそ、エドガー・アラン・ポーの住居だったところでした。作家を目指していたWillyにとって、そこで倒れるということは、ひとつの救いだったのかもしれません。

 動けなくなったWillyはやがて、そこを退くように云ってきた警官たちによって行き倒れた者として病院まで運ばれるのですが、Mr. Bonesはそのままだと処分されてしまう可能性があるので、Willyの「逃げろ」という声で駆け出します。

 この後、Willyは病院でMrs.Swansonとの再会を果たすのですが、その様子を、なぜか「ハエ」になって天井から見下ろすMr. Bonesの視線が素晴らしい。ここのジャンプ感は最高。

 WillyとMrs.Swansonの会話がいいんですよね。道中、WillyからMrs.Swansonの聡明さと気前ののよさを聞かされていたMr. Bonesは、30年ぶりに見る教え子が病院に担ぎ込まれた姿を見た反応に仰天します。Mrs.Swansonは気丈にもこう云うんですな。

《「参ったわねぇ、ウィリアム」と彼女は言った。「あんた、人生滅茶苦茶にしちゃったみたいね」"Jesus Christ, Willam," she said. "You've sure made a mess of things, haven't you?"》

実は、ペイパーバック版では読んでいたんですが、この日本語は素晴らしいですね。さすが柴田さん。

Timbuktu1

 とにかく、日本語版のp.83-からのWillyとMrs.Swansonの会話は素晴らしすぎ。もし、アメリカに、どこか、まだ憧れがあるとすれば、こうした女性がローカルな街に本当にいるかもしれない、と思うからなんじゃないのかな、なんて思いながら読んでいました。

 後半はMr. Bonesのさすらい。

 裕福な一家に拾われたMr. Bonesは、Willyと過ごした最底辺のアメリカと、あまりにも豊かであることを、本人たちもあまり理解していない裕福な層の生活をどちらも経験することになります。

 アメリカのふたつの階層は決して交わることはないんだろうと思いますね。しかし、犬ならば、入って、出て行くことは可能なのかもしれません。

Timbuktu2

 後は読んでのお楽しみということですが、日本語版の装丁にはちょっと違和感が…と思ったのですが、Amazonによると、オースターの飼い犬だとか。

 ヘイパーバック版のMr. Bonesが、個人的にはイメージそのままだったので、日本語版のはあまにも可愛いすぎるというか。

Williamwegman

 でも、ドイツ語のCD版の犬も違っているし…。まあ、それぞれの国によって、イメージは違うんでしょうかね。なんか、キレイすぎる感じもありますが、ウィリアム・ウェッグマンのマン・レイとその子供たち(William WEGMAN, Man Ray)みたいなのもアリかな、と個人的に思ったりもして。

 にしても、このカレンダーいいっすよねぇ…。

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