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September 30, 2006

『素数ゼミの謎』

Prime_number_cicadas

『素数ゼミの謎』吉村仁、文芸春秋

 素晴らしい小品。うなってしまうほど。題材がいい、展開が素晴らしい、結論が奥深い。

 素数ゼミとは何か。

 ぼくは全く知らなかったのですが、北米に13年あるいは17年ごとに大発生するセミがいるんですと。

 日本のセミも6~7年、地中に幼虫としてすごした後、オスがミンミンあるいはジージー鳴きまくってメスを探し、やがて交尾したらアッサリと死んでしまうのですが、さすが、アメリカのセミ。幼虫で暮らすのが13年あるいは17年というのですからやることがデカイというか長い(ちなみに体型は日本のセミより小さいんですが)。

 では、なぜ、こんな幼虫でいる時間が長いセミが北米で大量発生して人々を驚かすのか。

 その謎を地球物理学、数学もちろん生物学を駆使して、わかりやすく開設したのがこの本。イラストもたっぷりで、ルビもふってある本ですが、さすが文藝春秋ですね。面白い論文を探してきて、一冊の本にしちゃったのはさすがです。目利きの編集がいんでしょう(元ネタはAmerican Naturalist146"The evolution origins of periodical cicadas during ice ages"1986, Yoshimura)。

 以下、ネタバレになりますが、まず地球物理学的にいいますと、氷河期になると、温度の下降というのは一気に進むらしいんですな。回転軸の傾きがちょっと変わって、大陸と海上部分に光りが当たる割合が変化すると気温の変化の度合いは大きくなり、いったん氷河の白い部分が多くなると、太陽からの光が反射して宇宙に拡散され、ますます氷河が成長しまくるというアルベト効果というのが始まるらしいんですが、そうした氷河期でも盆地になったようなところでは、氷河の進出が食い止められ、多くの生物のノアの箱船になったような「レフュージア」が何ヵ所かあったというらしいんですわ。

 そんな氷河期が長い間続くと、セミの幼虫たちの成長スピードもにぶる、と。木から得られる養分が減るわけですから。そうなると、脱皮を繰り返していざ三次元空間に飛び出しても、交尾するパートナーをなかなか見つけられないほど、個体数が減ってしまった可能性がある、と。

 ならば、交尾のチャンスを増やすして確実に子孫を残す確率を高めるためにはどうしたからいいのかといいます、一斉にドッと地上に出て、あまりうろつき廻らないで、集団の中で交尾しまくる、というパターンを持つ群れが、子孫を大量に残す可能性が高かったのではないか、と。そうしたセミたちが、長く遺伝子を残すことに成功したに違いない、というんですわ。

 では、なぜ今の北米には13年周期あるいは17年周期で大発生をくりかえす「素数ゼミ」が生き残っているのでしょうか?

 たぶん、氷河期をやり過ごして一斉にドッと地上に出る習慣を獲得したセミは他にもあったかもしれないのですが、偶数年や素数でもヒトケタの7年あたりでドッと出る派は「交雑」によって、子供たちの一斉にでる年数が違ってきてしまい、それによって、一斉にドッと出る個体の数が減っていき、やがていなくなったのでないか、というのがこの本のキモ。

 13年あるいは17年ごとにドッと出る「素数ゼミ」は偶数年にドッと出る派と違って、最小公倍数が大きくなるため、他の年数でドッと出るセミたちをやがて駆逐していったというんです。

 ある「レフュージア」に14年ゼミ、15年ゼミ、16年ゼミ、17年ゼミ、18年ゼミという4群のセミがいたと仮定として、最小公倍数が大きく、他の年にドッと出るセミたちと間違って交雑してしまう可能性が低いのは17年ゼミという素数の年にドッと出るセミだというんです。

 例えば15年ゼミと18年ゼミは90周年周期で一緒にドッと出てしまい、子供たちがその両親と同じドッと出る年数を覚えられなくなる危険性は高くなりますが(親と同じ15年ゼミ、18年ゼミだけではなく16年ゼミや17年ゼミが生まれてしまうかもしれない)、17年ゼミと18年ゼミの場合だと、一緒にドッと出る周期は306年に1回しか合わない。それは素数の特徴である、と。そんなことを繰り返すうちに、すっかり18年ゼミあるいは14年ゼミ、15年ゼミ、16年ゼミは固体数を減らし、やがて駆逐されていったんじゃないか、と

 ぼくが知らなかっただけですけど、進化とは、こうした子孫を残すチャンスの大きな生き方の生物が自然淘汰される過程なんだな、という考え方を学んだような気がします。

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