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August 25, 2006

『フーコーの穴』

Foucault

『フーコーの穴 統計学と統治の現在』木鐸社、重田園江

 これも小田中直樹先生の『日本の個人主義』を読んで、初めて知って購入した本。良かったです。書き下ろし、雑誌論文いろいろ取り混ぜてはいるけれど、全体的な統一感は結構あって「かき集めた」感じはしなかったのは、初めての単著だということからなのかもしれませんが。

 題名は映画『マルコヴィッチの穴』からとったといいます。映画からインスパイアされて、旦那さんから、長らく研究してきたフーコーの目から社会を見てみたらどうなのよ、と云われて思いついたとか。それはそれでいいんですが『ブレードランナー』『羊たちの沈黙』『カッコーの巣の上で』といささか当たり前すぎる映画に言及する場面が多すぎて、あと何十年かしたら、著者はちょっと恥ずかしくなるんじゃないかと、いらぬ心配をしてみたりして。

 それはおいといて、面白かったはの書き下ろしの4章「健康包囲網ー高血圧の定義に見る統計」。病気であるということは、質的なものか、それとも量的なものか、という問題をヤマ場に、その前提として、病気の定義を単一原因説(病原菌説、ビタミン欠乏症)からベルナールの「正常と病理の量的連続性」への流れを説明。さらには、ぼくは初めて知ったのですが、20世紀になって高血圧は病気だという概念が生まれ、それは1910年にアメリカの保険医会社の医師たちが、収縮期血圧140mnHg以上の人間の保険加入を拒否したことに始まるという情報に結びつけていきます。単に個人的な無知なのかもしれませんが、ここの論議は衝撃的でした。

 人間のカラダなんて、ほんの少し前までは、よくわからなったんだ、ということを改めて感じるとともに、アメリカ人のプラグマチックな自信は、こうしたところを背景にしているのかもしれないな、と思ったわけです。つまり、理論的に説明されなくっても「これはおかしい」と思ったら、そう判断してしまうチカラ強さみたいなもの。

 でも、そんなアメリカですが、20世紀前半という時代は、黒人差別と移民排斥にうながされて優等思想に凝りかたまり《刑務所に収容されている「劣等者」の家系を訪ね歩いて膨大な家系図を書いていた時代》でもあったといいます(p.108)。後に7章のプロファイリングの統計学でも触れられるのですが、アメリカ人は、刑務所に収容されている囚人を"社会的に再利用"してしまおうという発想が根強くあるのかな、とフト思いました。

 医学書ではないので4章は病気に関する定義を確定することが目的ではありませんで、話は「予防医学のストラテジー 健康には限度がない」(p.118)というあたりに突っ込んでいきます。

 いいですね「健康には限度がない」という指摘。ちょっと怖い。

 この本で感心したのは各章の「おわりに」。リスクヘッジすることなく、ちゃんと云いたいことを書いてます。4章「健康包囲網ー高血圧の定義に見る統計」の結論は《社会の「住民population」である医療サービスの受け手は、統計によって定められた病気と健康の定義にしたがって、自分の生活慣習を改善し、健康を管理することを強いられる。二一世紀は、健康が文字通り人の財産となり、終わりなき健康を死ぬまで追求しつづけるよう駆り立てられる、際限のない時代になるのだろうか》(p.123)。

 いいですね。この問題意識は。

 後の監視社会に関する考察で《監視の主体や目的そのものが一元化されない反面、ネットワークによって横断的に、予測できないしかたで結びつくために、いつ、どこで、何のために監視されているのか、あるいはそれがいいのか悪いのかといった価値判断が、容易にはできないのである》(p.255)、《自己責任や自己管理という形での個人の「活用」は、新しい統治のテクノロジーが持つ大きな特徴である》(p.256)という、少なくともぼく個人は深いリアリティを感じる言葉につながっていきます(そうか、自己責任うんぬんというのが、やたら最近いわれているのか、統治のテクノロジーなんか、みたいなのも含めて)。

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